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高病原性鳥インフルエンザ U

岡山県家畜病性鑑定所 大内 紀章

 インフルエンザウイルスは、A、B、Cの3つの血清型に分類され、A型は鳥類とほ乳類(ヒト、ウマ、ブタ等)に感染・発病します。B型はヒトのみに感染・発病します。また、C型はヒトのみに感染しますが発病はしません。
 鳥インフルエンザウイルスは、A型に含まれるウイルスで、そのうち高病原性鳥インフルエンザは、鶏をはじめアヒル、ウズラ、七面鳥に全身性血管障害等の症状を引き起こし、高い死亡率を示す急性伝染病です。
 A型インフルエンザウイルスは、ウイルスの表面にある2種類の蛋白質(ヘマグルチニン:HA、ノイラミニダーゼ:NA)によりH1〜H15までとN1〜N9の亜型に分類され、この亜型の組み合わせにより、例えば「H5N1亜型」のように表示されます。また、現在までに知られている高病原性鳥インフルエンザはH5亜型またはH7亜型に限られています。

1)高病原性鳥インフルエンザウイルスの侵入

 鳥インフルエンザウイルスは、もともとシベリア地域に由来し、ウイルスの運搬にはカモなどの水禽類の渡り鳥の関与が疑われております。日本での発生は、朝鮮半島などから渡り鳥が多く日本に飛来していること、カモ類は鳥インフルエンザウイルスに対する抵抗性が高いためにウイルスの運び屋となることが知られていることから渡り鳥により朝鮮半島を経由して高病原性鳥インフルエンザウイルスが日本に侵入した可能性が示唆されております。
 また、1983〜4年の冬に山陰地方に飛来する渡り鳥の糞便からの鳥インフルエンザウイルス分離調査でもコハクチョウから11株(2.4%)、オナガガモから28株(7.7%)、ウミネコから1株(0.4%)の低病原性鳥インフルエンザウイルスが分離されており、日本に飛来する渡り鳥が高率にウイルスを運んできていることが示されています。

2)病原性

 高病原性鳥インフルエンザウイルスは、脳、心臓を含むあらゆる臓器で増殖し、機能障害を起こさせるため高い死亡率を示すとともに伝染性も強いことから大きな被害となります。
 また、ヒトや他のほ乳類のA型インフルエンザウイルスは、鳥類から供給されていることが推察されています。

3)臨床症状等

 突然の死亡(4〜5日の間に100%死亡)、呼吸器症状、顔面・肉冠・脚部の浮腫・出血斑もしくはチアノーゼ、神経症状、下痢、産卵停止及び低下、食欲低下がみられます。
 一般的な感染経路は、感染した鳥類またはウイルスに汚染された排泄物、飼料、粉塵、 水、衛生害虫(ハエ等)、野鳥、人、使用管理器具、車両等との接触により感染が拡がります。

4)診断法

 @ ウイルス分離検査
  死亡または発症した家禽の気管、肺、直腸、脾臓等の検査材料を9〜11日齢の発育鶏卵に接種し、4日間孵卵し、胎子の死亡等の変化が認められない場合は発育卵の尿膜腔液を採取し、さらに、発育鶏卵に接種し同様にウイルスの分離を行います。
  胎子の異常等が認められウイルスが分離された場合は、赤血球凝集反応や特異抗血清等を用いて確定診断を行います。この検査に、簡易法としてA型インフルエンザウイルスの検出キットや遺伝子検査を組合わせて行うことによりウイルスを比較的短時間で確定することができます。
 A 血清学的方法(抗体検査)
  鶏群の感染の有無は、A型インフルエンザに共通したウイルス内部蛋白を利用したゲル内沈降反応で確認できます。

5)発生防止と防疫対策

 ・渡り鳥や野鳥と鶏(家禽)群を接触させないこと(鶏の放し飼いには十分注意する、開放型鶏舎では防鳥ネットを張る、飼料庫・堆肥置場等への侵入防止)。
 ・野生動物・衛生害虫の侵入防止(ネズミ、イタチ、ハエ等)。
 ・鶏舎等の出入り口には消毒層の設置、車両、器具従業員等の消毒の徹底。
 ・部外者の場内出入りを厳しく制限。
 ・野鳥や野生動物との接触が考えられる生水を直接鶏に与えない(飲用に適した水、消毒した水を与える)。
 ・養鶏場の従事員への衛生管理教育、作業記録の徹底と本病の情報提供を行い注意を喚起する。

 このように、日常的な衛生管理を徹底することがトリインフルエンザ発生防止の鉄則です。
 ワクチンでは発症は防ぐことができますが、感染は防ぐことができないため鶏群にウイルスがまん延する可能性もあり、日本では、本病の早期撲滅を困難にするので発生が拡大していない段階では基本的にワクチンによる防疫はしません。
 日本の防疫は、摘発淘汰方式を基本としており、発生した場合に殺処分は可能な限り鶏舎内で行い、埋却あるいは焼却処分しなければなりません。
 また、今までの高病原性鳥インフルエンザの発生は、H5とH7亜型のウイルスに限られています。これらH5とH7亜型のウイルスは、鶏(家禽)群内で感染を繰り返すうちに強毒化することが明らかとなっており、日本ではOIE(世界獣疫事務局)基準に加え、H5及びH7亜型のウイルスは、たとえ弱毒株でも「高病原性鳥インフルエンザ」として殺処分等の行政措置をとることにしています。
 消毒には、次亜塩素酸ナトリウム、アルカリ液、ホルマリン液、クレゾール液、逆性石けん液、蒸気等で少なくとも7日間隔で3回以上反復実施します。
 本症の防疫には、発生の早期発見、早期対応が重要なことなので、生産現場での確実な監視体制として「鳥インフルエンザモニタリング検査」を各家畜保健衛生所管内で実施しておりますので、異常鶏等が発生した場合には速やかに最寄りの家畜保健衛生所に連絡してください。