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牛成長ホルモン遺伝子型と和牛の産肉性及び食味形質との関係

岡山県総合畜産センター 和牛改良部 肉牛改良科  
研究員 片岡 博行

1.はじめに

 現在,和牛の改良には産肉性に関する育種価を選抜指標として活用しており,今後も重要なウエイトを占めると考えられます。
育種価は多くの遺伝子が持つ値の合計値であることから個々の遺伝子と産肉形質との関係が明らかになれば,育種改良の効率が飛躍的に向上することは言うまでもありません。
 そこで,国や各県とも産肉形質に関する遺伝子解析を進めているところです。
 こうした中で当センターで,牛の成長ホルモン遺伝子の型の違いが産肉性に及ぼす影響について検討したところ,枝肉重量の他,牛肉の食味成分に関しても影響する可能性が明らかになってきましたので,その概要を報告します。

2.成長ホルモン遺伝子とは?

 成長ホルモンは文字通り,成長促進作用のあるホルモンで,タンパク質同化,脂肪異化,糖代謝などの機能があります。牛の成長ホルモン遺伝子(以下,GH遺伝子)には,いくつかの型があって,和牛においても127番目と172番目のそれぞれにアミノ酸置換を伴う遺伝子の多型が存在し,次の表1のようにABCの3種類に分けられます。

 A遺伝子は,和牛以外ではホルスタインやブラウンスイスなど大型の品種に多く,またB遺伝子はジャージーやアンガスなど比較的小型の品種に多く存在していることが分かっています。
 ちなみにC遺伝子はこれまでのところ黒毛和種,褐毛和種といった和牛でしか確認されていません。

3.GH遺伝子型と産肉性との関係

 表2に県下の和牛のGH遺伝子型の頻度を示しました。雌雄ともAとCの遺伝子が多く,B遺伝子が少ないという特徴があり,特に雌牛の多くがC遺伝子を保有していることが分かりました。

 表3にGH遺伝子型と枝肉成績の関係を示しました。AA型がBC型に比べて枝肉重量で有意に重くなる傾向が見られましたが,その他の形質では有意差は見られませんでした。

 先に述べましたように,A遺伝子は大型の品種に多く存在することが知られており,今回,枝肉重量で見られた傾向はこれら品種の体型的特徴とも相関が見られます。

4.GH遺伝子型と食味成分との関係

 牛肉の食味を左右する主なものに脂肪の質が上げられます。脂肪の質はそれを構成する飽和と不飽和の脂肪酸の種類と割合によって変化し,牛肉では不飽和脂肪酸が多いほど脂肪が柔らかく,特にC18:1(オレイン酸)の多いものが風味に優れることが知られています。
 去勢肥育牛について皮下脂肪の脂肪酸組成とGH遺伝子型の関係を調査した結果を表4に示しました。
 AC,BC,及びCC型はAA型に比べ,有意にオレイン酸含有率が高く,全不飽和脂肪酸も多い傾向が見られました。
 次にC遺伝子の有無により,オレイン酸含有率を比較した結果を図に示しました。

 図のように,C遺伝子を持つ牛は持たない牛に比べて有意にオレイン酸含量が多く,食味が優れる可能性が示唆されました。
 前述のようにC遺伝子は和牛にしか存在しない型で,和牛肉の特徴である風味の良さとも強く関係することが示唆されました。特に岡山和牛は,C遺伝子の頻度が高いことから食味の良い牛群が多く存在しているものと考えられます。

5.まとめ

 今回の調査では,GH遺伝子型と産肉性については枝肉重量で有意に影響する結果となった一方,脂肪交雑など他の形質についてはその影響は見られませんでした。
 脂肪の質についてはGH遺伝子型の影響が示唆され,今後の和牛改良,特に食味を考慮する上で一つの指標となるものと期待されます。
 更に,脂肪の質については,GH遺伝子型の他にも,脂肪の不飽和化に関係するSCD(ステアロイル−CoA−ディサチュラーゼ)遺伝子についても和牛には2つの型があり,不飽和脂肪酸割合に影響することが報告されておりますが,これについても現在,本県の和牛について調査しているところです。
 遺伝子レベルでの和牛改良は,これまでの研究段階から,実際の選抜指標に取り入れられる段階にきており,遺伝子レベルでの能力指標とそれを用いた選抜は,多様化するニーズに的確に対応する有効な手段となるものと期待されています。
 今後も和牛について遺伝子レベルで形質との関連を明らかにし,貴重な岡山和牛の遺伝子を生かしたDNA育種の実用化を目指していく方針です。