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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

津山家畜診療所 森本 高輝

 診療が終わってバルク室に入り,手洗いをしていると,水道わきの机上に置かれている1枚の用紙に目が止まりました。それは月2回配布されている乳質検査結果表です。農家の了解をいただき,閲覧。最近は体細胞数(ssc)の少ない農家順に羅列されており,非常にわかり易くなっています。見ると,良質乳とされている30万以下をクリアしている農家は全体の1/3。このような状況は年間を通して余り変わっていないようです。特に搾乳牛の体力が低下する8〜9月については1/4近くまで下がっているようです。逆に言えば,3人に2人は良質乳に適合できていないことになります。まさに「赤信号,みんなで渡れば怖くない」と言った状況です。笑い話では済まされません。ことは深刻です。
 バルク乳で30万以下をクリアできないということは,乳質の程度によって状況は様々でありますが,臨床型乳房炎(乳房の腫脹・ブツなど症状を示しているもの)の乳汁の混入・慢性乳房炎や潜在性乳房炎の存在があるということになります。中でも慢性乳房炎や潜在性乳房炎の存在が,持続的な体細胞数の増加の大きな要因になっているということで,近年問題になっています。その理由は,臨床型乳房炎の症状が,表面的には消えても,後に慢性に移行していくもの(慢性乳房炎)や潜在性乳房炎の大きな要因とされている黄色ブドウ球菌の,牛群への感染が多発していることにあります。両者は臨床型とちがい,顕著な症状を示さず,体調や搾乳等によって体細胞数が変動するので,感染牛が増えればバルク乳の体細胞数は自然に上昇していくというように,大変厄介なものです。一日も早く感染牛の特定をおこない,対策を講ずるべきだと思います。牛群検定をおこなっている農家であれば,個体別体細胞数リストを見れば,一目瞭然です。一度じっくりと見ていただきたいと思います。以上のことから今回,少しでも,体細胞を減少させるために,何点かの方法を紹介させていただきたいと思います。

1 細菌検査・薬剤感受性試験の実施

 臨床型乳房炎の場合

 感染部位に薬剤が到達しないことが多く,期待したほど効果が上がらないが,乳房炎軟膏を注入前に乳汁を採取して,感受性試験をおこない,感受性のある薬剤を特定。

 慢性・潜在性乳房炎の場合

 細菌の栄養源である牛乳がなくなり,薬剤の持続性が長くなる乾乳時に,治療をおこなう。黄色ブドウ球菌感染牛については,乾乳時の治療(全身投与+乳房内注入)しか効果は期待できない。

2 搾乳立会の実施

 どんなに的確な検査や治療をおこなっても搾乳手順や搾乳衛生がいい加減であれば,容易に再感染してしまいます。早い時期に,搾乳方法は正しいか,第3者の目で客観的に見てもらうようにお勧めしたいと思います。

3 淘 汰

 緑膿菌など,使用薬剤に感受性を示さない細菌が検出された場合は,同居牛への感染の恐れがあるため,思い切った淘汰をお勧めします。
 最後に,個人的に痛感することは,各地で乳質改善の取組みをおこなって来ているが,余り期待したほど効果はでていないようです。農家の方はもちろんのこと,関係機関が共通認識に立ち,対策を講じなければ,全国的には改善傾向にある中でひとり岡山だけが取り残されてしまうのではないかと心配している日々であります。