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〔家畜保健衛生所のページ〕

HOW OLD・・・?

岡山県真庭家畜保健衛生所  岡田 耕平

1.アメリカの牛の歳

 BSEの発生によって途絶えている,アメリカからの牛肉輸入再開をめぐって,牛の歳(月齢)が問題になっています。食肉牛の全頭についてBSE検査が必要と考える日本に対し,アメリカは,30カ月齢以下の牛は,BSE検査の対象から外すよう主張してきました。そして今,20カ月齢以下の牛は,BSE検査対象から除外することで,米国産牛肉の輸入再開の条件整備がなされようとしています。
 しかし肉用牛の95%が,放牧地での「まき牛」による自然交配だといわれるアメリカで,確かな牛の月齢が分かるのでしょうか?トレーサビリティシステムが整備されてない国で,何を手がかりに月齢を推定するのでしょうか?
 牛の月齢推定方法についてまとめてみました。

2.骨と肉質の成熟度

 新聞報道によると,アメリカは「骨と肉質の成熟度」で月齢を推定する方法を提案しています。成熟度(maturity)は,アメリカにおける枝肉格付けの重要な検査項目で,彼らにとっては馴染んできた手法なのでしょう。

 (1) アメリカの枝肉格付

 アメリカの枝肉格付も日本と同様,@肉質等級とA歩留等級からなっています。
 そして,日本の肉質等級が,@脂肪交雑,A肉の色沢,Bきめ・締まり,C脂肪の色沢と質,によって決定されるのに対し,アメリカの肉質等級は,脂肪交雑と成熟度(maturity)の2つの要素を主体に,ロースの肉色,きめ,締まり,を考慮して,8段階に格付けされています。

 (2) 成熟度(maturity)

 成熟度は,肉の軟らかさ,多汁性,香りを左右する要素として重視され,月齢との関係が強いと考えられています。ランクは,AからEの5段階で,月齢とは,表1のように関連付けられ,次のチェック項目があります。
@軟骨の化骨状態(加齢と共に骨化)
A肋骨の色(肋骨の胸腔面:若いほど赤い)
B肉色(加齢と共に濃くなる)
C肉のきめ(加齢と共に荒くなる)

 特に,脊椎と軟骨の状態が生理的年齢をよく反映していると考えられ,それらと成熟度の関係は表2のように整理されています。
 成熟度の表示は,同じランクの中を,程度によって10%刻みで,0−100%の添え字を付け表示されます。(例:B0,B10,B50 などと表示,Bランクは30ヶ月齢から42ヶ月齢未満なので,B50 は36ヶ月齢前後を指す。)

 写真1,写真2は同一牛のそれぞれの部分の椎骨の状態を示すものです。表2の基準で,成熟度を判定してみてください。


写真1 仙椎及び腰椎

写真2 腰椎及び肋骨

 写真1では,仙椎の個々の棘突起は分かりますが,椎骨の融合がかなり進んでいます。腰椎の化骨も進んでいますが,椎骨(棘突起)上に軟骨(白い層)が少し残っています。
 写真2では,胸椎には棘突起上に大きな軟骨が有り,肋骨はやや赤味をおび,骨に丸味が感じられます。これらの状態を表2の基準と照らし合わせると・・・・・・
 この枝肉は23カ月齢の交雑種ですが,成熟度A60〜A70程度に判定出来たでしょうか。

3.歯の状態

 歯並びからの年齢推定は,我が国でも良く知られている方法です。
 これもBSE騒動の余波でしょうか,アメリカ,オーストラリアの政府機関,大学のホームパージに,よく「歯の状態による牛の年齢推定」と題する記事を載せています。

 (1) 牛の歯式

 歯は左右同数ですから,永久歯を片側だけで表し,次のように表示します。
 門歯(I)下のみ4本,犬歯(C)上下0本,小臼歯(P)上下各3本,大臼歯(M)上下各3本,以上で合計32本となります。
2(I0/4,C0/0,P3/3,M3/3)=32
 月齢の推定は,門歯,小臼歯,大臼歯それぞれの生え具合によりますが,見易いこと,数が多くて段階的時期の推定がし易いことから,門歯での月齢推定が多くなされています。

 (2) 門歯の状態


写真3 牛の門歯

 写真3は,門歯の生えそろった状態です。I−1からI−4まで,左右対称でこの番号順に生えてきます。
 表3は,アメリカ農務省のホームページからの引用です。
 中央の門歯1対(I−1)2本の永久歯が,生え始めてから生え揃うのが18〜24カ月齢,4対8本の永久歯が総て生え揃うのが,48カ月齢です。したがって,永久歯2本(I−1)が生え揃っていれば24カ月齢,永久歯3本なら,3本目の状態を勘案して,24〜30の間で月齢を推定することになります。
 図1は,月齢と共に変化する門歯の状態を図示したもので,フロリダ大学の資料です。以下その説明文を紹介します。
 14カ月齢では,短くて幅のある乳歯がしっかりと歯茎に固定しています。
 17カ月頃になると,歯自体が細く長く感じられるようになり,歯の固定がゆるくなります。特に中央の1対(I−1)がグラツキ始めます。
 19〜20カ月齢で,永久歯の最初の1本が生え始めます。(フロリダ大学の資料では,この状態を19〜20カ月齢としていますが,私達の調査では21カ月齢未満でこの状態になった牛はいませんでした。)
 21カ月齢で,中央の1対(I−1)の遅い方が生え始め,23カ月齢で生え揃っています。28カ月齢では,門歯2対が生え揃った状態を示していますが,説明文には3歳の早い時期と書かれており,36カ月齢前後と考えられます。そして3対6本になるのが,その6〜7カ月後で,4対8本の永久歯が生え揃うのが54カ月齢だと説明しています。


図1 門歯の状態(フロリダ大学)

 (3) 歯列の野外調査

 アメリカ農務省とフロリダ大学の資料を見ましたが,我が岡山の牛ではどうなのでしょうか。管内60頭の乳用牛について,調査時点での永久歯の本数と,月齢を取りまとめたのが表4です。
 全部乳歯の状態で,最も月齢が進んでいた牛は24.8カ月齢で,全歯が永久歯に生え替わってていた最も若い牛は,48.5カ月齢でした。
 同じ歯の状態の牛でも月齢が異なり,永久歯が1本の牛で3カ月(21.3〜24.2カ月),6本の牛では11.5カ月(41.0〜52.5カ月)の差がみられました。
 しかし,24〜25カ月齢の80%が2本の永久歯があり,28〜30カ月齢では1頭の例外を除き4本の永久歯が生え揃っており,歯による月齢推定は,簡単で確かな指標といえそうです。

 牛の月齢推定方法について考えてみて,「骨と肉質の成熟度」,「歯の状態」共に,簡単で,有効な手段と思われました。
 しかし今回の議論は,BSE検査対象牛線引きのための月齢推定であり,食の安全・安心の根幹に関わる問題です。「骨と肉質の成熟度」や「歯の状態」では,推定尺の目が粗すぎるように思われます。
 そして今問われているのは,「月齢の証明方法」ではなく,「安全の確認方法」であることを,アメリカには理解していただきたいものです。