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〔普及の現場から〕

作ってみました 「手作り乳酸菌(FJLB)」
〜飼料イネサイレージの低コスト高品質生産への取り組み〜

岡山農業改良普及センター

1 はじめに

 岡山管内では,転作田の有効活用と飼料自給率の向上をねらいとして,平成13年度から飼料イネのホールクロップサイレージ生産に取り組んでおり,岡山市西大寺と瀬戸内市長船町で約15haが栽培されています。
 今年度は飼料イネの単収向上を図るための牛尿の多量施用と,サイレージ発酵品質の向上を図るための手作り乳酸菌の製造・添加を実証しています。
 牛尿施用については,総合畜産センター等と協力して行っており,既に「岡山畜産便り」等でも紹介されていますので,今回は手作り乳酸菌の製造・添加の取り組みについて紹介します。

2 飼料イネへの乳酸菌の利用

 飼料イネは,茎が中空のため保有する空気量が多いこと,イネに付着する乳酸菌の数が少ないことから乳酸発酵が弱く,サイレージ調製が難しいと言われています。このため,飼料イネの良質なサイレージ発酵を実現させるためには,ダイレクトカット専用収穫機を利用し,基本的な調製技術を遵守したうえで乳酸菌を利用します。
 乳酸菌については,昨年度から飼料イネ用の乳酸菌が販売され,良質な発酵が実証されていますが,価格が高く,生産コストの10%程度を占めています。
 そこで,三重県で始まり,広島県や鳥取県でも行われている「FJLB=付着乳酸菌事前発酵液」の取り組み(畜産会経営情報177や畜産コンサルタント477で紹介)を参考に,岡山管内でも手作り乳酸菌を製造してみました。

3 現場でのFJLB製造方法

 (1) 用意するもの(100L分=イネ20t分)

・新鮮なイネ茎葉       5s
 ・砂糖            5s
 ・酢             1.5L
 ・洗濯ネット(大型・細目)  1枚
 ・ローリータンク(100L)   1個
 ・熱帯魚用サーモヒーター
  (温度調節機能付き200W〜) 1台
 ・重石(約1s)       2個
 ・押し切り,量り,撹拌棒(柄杓),
  温度計,pHメーター,漏斗,濾布


写真1 準備するもの

 (2) 製造手順

1)イネの茎葉を細断し,ネットに入れます

・新鮮で株元に泥の付いていないイネの茎葉(高刈りし,枯れた部分は取り除く:5s)を押し切り等で細かく切ります。
・細断した茎葉を洗濯ネットの中に入れ,浮かばないように重石を入れます。


写真2 イネを細断する


写真3 ネットに入れる

2)砂糖と酢と一緒にタンクに入れます

・ネットに入れたイネと砂糖(2s)をタンクに入れ,水を満たして混合します。
・pHの早期低下とカビ発生抑制の目的で,pH4.2程度になるまで酢を加えます。
・タンク内に空気の残らないよう水を口まで入れ,嫌気状態で密閉します。


写真4 砂糖と酢を入れる

3)25〜30℃で2日間発酵させます

・サーモヒーターを使って25〜30℃(30℃が適温)で2日間保温します(1日1回,調製液の撹拌と水温を確認)。
・水の代わりに30℃程度のお湯で調製すると早く乳酸発酵し,pH低下が早まります。
・直射日光に当たらないよう日陰で保管培養します(タンク上部の水温上昇に注意)。
・夜間冷える場合は,毛布やシートで被って保温します。


写真5 30度で培養する

4)pH3.5になったらネットを取り出します

・pHが3.5前後まで下がっていることを確認し,ネットを取り出します。
・大容量の調製や茎葉を粗く切断した場合はpH低下が1〜2日遅れます。
・できたての新鮮なFJLBを調製時に少し添加すると発酵時間が短縮できます。


写真6 pH3.5で培養終了

5)砂糖をさらに追加し,濾過します

・FJLBを添加装置に入れる前に,残った砂糖(3s)を加え,ロールベール中での乳酸発酵を促進します。
・FJLBは濾布等で濾過し,不純物を取り除き添加装置の目詰まりを防ぎます。

写真7 液を濾過する

6)収穫時に飼料イネに噴霧します

・専用収穫機の添加装置で,1ロール約300sの茎葉に1.5L(0.5%添加)噴霧します。
・調製したFJLBは,時間が経つとさらにpHが下がりますが,不良発酵の原因菌も増殖するので,培養4日目までに利用します。


写真8 収穫時に噴霧する

4 製造してみて

 3回製造してみましたが,培養42〜48時間でpHは3.2〜3.5に低下し,いずれも甘酸っぱい香りのFJLBができ,約5haで利用しました。

 (1) 製造の手間

 1回の製造(細断〜濾過)に1人作業で1時間30分程度かかりました。イネの細断が最も大変で,カッターや剪定枝シュレッダーを使えばもっと簡単に製造できると思います。
 また,市販乳酸菌に比べて添加量が多いので添加作業(補充作業)がかかりました。

 (2) 製造コスト

 ローリータンク(7,000円前後),サーモヒーター(3,000円前後)等は必要ですが,洗濯ネットや砂糖,酢などの材料代は,百円ショップやスーパーの特売を利用すれば,イネ20t分で900円程度(1ロール13円)で済み,市販乳酸菌の1/15以下でできました。

5 おわりに〜今後の方向

 2月にはサイレージの発酵品質をチェックし,市販乳酸菌との比較を行い,添加効果を確認することにしています。
 今回は100Lタンクでの製造でしたが,200〜300Lタンクで製造し,500Lタンクで保存すれば,もっと省力化できますし,麦類や他の牧草への応用も考えられます。
 今年度は台風等の影響で専用収穫機の調達が2週間以上も遅れたため,刈り遅れとなってしまいました。今後飼料イネの栽培を維持拡大していくためにも,県内での専用収穫機利用体系の見直しが必要であり,一方で飼料イネの消化性改善についても検討していく必要があると思われます。