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〔私の趣味〕

「17文字」 の世界

久米町  奥 一郎

     初競りの木材市場や声昂し
                七月や久米の里山青深し
                          一山も二山も杉の青嶺かな

 平成6年3月,総合畜産センターを最後に,私は37年余の畜産業務から身を退きました。
 そして,当時お世話になっていた方の紹介で,「食肉市場の経験を,木材市場の運営に活かしてもらいたい。」と請われていた津山市内の木材市場に,同年4月,好奇心もあり「儘よっ」と飛び込みました。
 畜産時代は,山を見ると草地開発適地か否かと,畜産農家のことしか目に入りません。
 それが林業木材界に入ると,畜産が消えて山は杉桧の成育状態と,製材所,木工所の状況のみしか目に入ってきません。
 以来,畜産を横目に見ながら10年余,「めくら蛇に怖じず」で,木材市場の移転整備,経営改革等に取組み,平成16年5月31日付けで無事退任することができました。
 念願の自遊人になれたのです。すると,今まで,趣味は?と問われると「仕事です」と答えていましたが,仕事を止めるとそうも言えなくなります。そこで,究極の文学とも言われている17文字の俳句,川柳に挑戦してみようと思い起ちました。
 川柳では,以前K先輩から頂戴していた句集を反復読み返し,人生の哀歓を見事に詠われている句に,ただただ感心するばかり。そんな矢先に,久米町文化協会の俳句会,川柳会より入会勧誘があり,渡りに舟で入会しました。川柳は人を主題に,俳句は自然を主題に,直感を大事にして,五七五のリズムで詠めばよいのだろうと簡単に考えていました。ところがすぐ壁につきあたりました。
 特に,俳句は季語,切れ,季重なり等の制約があり,これを無視すると厳しい評価を受けます。季語や語彙に乏しい私は,早くもダウンです。その上,あれもこれも詠み込もうとするので,字余りだ,説明句だと辛い批評が返ってきます。
 畜産人で,優れた歌や句を詠まれ,発表されている方々に,改めて深い敬意を表す次第です。
 句会の先生は,「七十の手習いだから焦らず歳時記を読み返し,観察力と,感性を磨きましょう。何事も継続が大切ですよ。」と脱落を暗に戒められます。因みに先生のお歳は,93歳でかくしゃくとしておられます。
 私も「儂の人生これからぞ」と密かに思っていましたので,七十坂越えの一段一段を愉しみながら,マイペースで登って行こうと考え直しました。
 鈍った感性は中々若返りませんが,古来稀な七十歳も,洟垂れ小僧と言われる時代です。傘寿,米寿,卆寿,白寿と,まだまだ愉しめる余白がある,と無理して思えば気楽です。
 しかし,気楽な反面,心配な事件も多発しています。冒頭の句も,秋には次のような句に変わりました。

 一山も二山も無惨台風禍
 冬山も悲鳴のごとしチェンソー

 平成16年は,天災,人災が重なり大変でした。30年,50年生の桧や杉が,ドミノ倒しの様に根こそぎ倒れ,山全体を覆っている惨状を視るとき,台風のせいだとばかり言っておれないものを感じます。
 台風,中越地震被災の方々に心よりお見舞い申し上げます。

 謙信も吃驚したろー震度七

 平成17年は,穏やかな年でありますよう,心からお祈りいたします。

 初鶏の声たからかや酉の年