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〔畜産農家の声〕

「牛」の口とらへて老いを迎ふる者として

おかやま酪農協女性部 片山 紀子

 我が家は搾乳牛22頭の小さな酪農家です。牛を飼っているというより、牛といっしょに暮らしながら生きています。子牛の出産というステキな出会いと、さみしい別れを繰り返しながら、能力を100%発揮させてやることが牛たちにしてやれる唯一のことだと信じて、毎日頑張っています。
 子牛が生まれると名前をつけ、大切に育てます。子どもたちも私のしていることを覚えたのか、哺乳中に尻尾を振ると「おいしいって言っているョ。」と喜び、尻尾を少し下げ背中を丸めていると「お母さん、大変だよ。おなかが痛いんだよ。」と心配して、子牛の背中を竹ぼうきで一生懸命マッサージしてくれます。共進会には、「頑張れ。頑張れ。」と自分たちの牛の応援にもみんなで行きます。今年、長男は主人といっしょに出品牛をもち、共進会デビューです。力だけでは牛が動いてくれないことがわかったのか、「来年はもう少し練習せんとなぁ。それに出品するからには、やっぱ入賞せんと……。」と少し嫌がりながらの参加のわりには、しっかりと次回への闘志をみせていました。
 将来、後継者になってくれる子がいるかどうかはまだわかりませんが、両親の職業を理解してくれ、牛といっしょに暮らしていく中で共通の話題で話ができたり、やさしい気持ちが育ってくれることが、何よりも有難いことだと思っています。
 これからも、働ける限り、できれば死ぬまで牛たちと暮らすのが、私の目標であり夢でもあります。しかし、これを実現することは決して容易なことではないと覚悟しています。時代の流れとともに、現在の規模での経営は厳しくなってきています。単に規模拡大だけで、乗り越えられる問題ばかりでもないはずです。糞尿問題、乳質問題、異常気象による自給飼料の不作、そして購入乾草ですら品質が一定化せず牛の体調が気になります。呑気にしていたら、大変なことになります。
 常に情報を集め、新しい技術を取り入れ、牛群の改良に努めなければなりません。主人ともよく話をします。ケンカにもなります。試行錯誤を繰り返しながら、何とかやっています。「まるで研究でもしているみたいだねぇ。」と夫婦で苦笑いしています。
 乳質をよくするためにも色々やってみました。乳汁検査をしてもらったり、搾乳手順を工夫したり、PLテスターでこまめに検査してみたり……。乳頭が夢に出てきたこともありますが、結局基本的マニュアルをきちんと守ったら、あとは牛の体調が左右するようです。「健康な牛から絞った牛乳が、おいしい牛乳なんだ。」と初心にかえった思いがしました。
 牛群改良によって牛の体格、乳器、気質さえも変わっていき、幼い頃の記憶に残っている牛たちとは驚くほど違っています。その分、ずいぶんストレスにも弱くなっているのは、どこか人間社会と似ているような気がします。これから我が家の経営も規模拡大か、複合経営かの道を選択していくことになるとは思いますが、牛たちと共に前向きに頑張っていきます。少し時代遅れの酪農家かもしれませんが、消費者の求める安全でおいしい牛乳を生産できるように、今日も牛舎で働いています。