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〔普及の現場から〕

やってみて,びっくり,和牛放牧の効果
(総社市の遊休農地放牧実証)

倉敷農業改良普及センター

1 はじめに

 遊休農地放牧を県南部地域へ普及させる目的で,平成16年度に総合畜産センターが主体で「遊休農地放牧実証展示」を実施することになりました。倉敷地域でも候補地を募集したところ,総社市奥坂にある“北の吉備路保存会”が棚田を管理しているが,「だんだんと荒れてきて困っている。何か良い方法はないか」との相談を受け,放牧の説明を行い,実証に取り組むことになりました。この実証展示が,「論より証拠,百聞は一見にしかず」のことばどおりに,効果が上がりましたので紹介します。

2 放牧実証地の選定

 実証地は,鬼ノ城の北西にある山間の棚田で,遊歩道が通りハイキングコースになっているところです。8月に現地調査をした時には,2〜3年放置していたため,草に被われどこが田で,どこに石垣や川があるのか,全くわからない状況でした。所有者の放牧許可を得て約30aの棚田に放牧することになりました。


現地調査時点

3 放牧の準備

 総合畜産センターから放牧牛2頭をレンタルすることになり,牛のスケジュールで,9月21日から開始することになり,電気牧柵を4日前に設置しました。棚田は,9筆の田に分かれていましたが,一括して一つの放牧地としました。保存会と関係者が集まり,周囲を支柱(ポール)を立てる分だけ草刈りし,支柱を立て,クリップをつけ,脱柵防止のため,電牧線は3段張りにしました。水飲み場は棚田の間に流れている川をそのまま使うことにしました。


電気牧柵設置

4 放牧開始

 放牧牛2頭は,東備地域の実証地から運ばれてきました。牛は放牧地に入った途端に草を食べ始め,まずは安心しました。この日から,人間に慣らしておくためと牛の健康維持と観察のために,保存会と市役所が交代で1日1回エサやりを行うことにしました。また,脱柵による損害賠償のための放牧保険に入り,休日等でも対応できるよう連絡網も作りました。


放牧開始

5 放牧の効果

 牛は最下段の棚田から雑草を食べ始めました。最初はうっそうと茂った草の中で牛の姿も隠れる程でしたが,隙間が空き,見渡せるようになりました。段差がきついところもあったのですが,牛は自由に最上段まで行き来し,暑いときも台風の時もおとなしく草を食べ続けました。草丈の短いものから先に食べ,その後セイタカアワダチソウやススキの葉,最後には穂先まで食べ尽くし,約1ヵ月で茎のみが立っているだけの状態になりました。保存会や関係者からは,「これほど効果があるものか,草がほとんど無くなってしまった。」「牛はすごい仕事をするものだ。」と言った声が上がるようになりました。


開始前の雑草

終了時点の雑草

6 放牧実証の延長

 和牛放牧による景観美化効果の高さは,直接の関係者はもちろんのこと,周囲にも伝わり,さらに実証継続はできないかとの相談を受けました。そこで,検討した結果,冬季放牧の実証も兼ねて継続することにしました。草の無くなった第1牧区から急きょ設置した第2牧区(以降は2段張り)へ,さらに第3牧区へと続けて放牧しました。季節は秋から冬に移り,牛は第3牧区で積雪も経験し,年を越しました。


放牧前の第2、3牧区

7 冬季放牧の効果

 年が明けて,第4,第5,第6牧区まで設置しました。冬季放牧では,雑草も立ち枯れや倒伏した状態になり,倒れた草の下に青草が少し残っている状況でした。その中でも,牛はけがや病気もせず,枯れた葉を食べながら,次々と新しい牧区の雑草を食べ尽くしていきました。しかし,草が硬くなったり,乾燥して量が少なくなくなったためか,雑草を食べ尽くすスピードが速くなり,牛も痩せていくようになりました。そのため,放牧期間を短縮せざるを得なくなりましたが,移動が簡単にできないため,エサ(濃厚飼料)の量を増やすことで凌いでいました。牛の体重変動を抑えるためには,牧区を増やし速やかに移動するか,濃厚飼料や乾草などの補助飼料を十分に与えることがポイントになります。


第1牧区耕運後

8 放牧実証跡地の利用

 放牧終了後は,残った草の茎を人力で刈り取り掃除することで,簡単にもとの棚田の姿に戻りました。第1牧区は,耕運し,ナタネをまきました。第2牧区以降はソバをまく予定です。また,保存会で牧区の周りの荒れた田や林地もきれいに整備し,見違える景色となりました。放牧実証が,見事に遊休農地の有効利用と景観保全活動につながりました。


整備後の第2,3牧区

9 放牧実証の波及効果

 今回の放牧実証の成果を受けて,総社市では来年度「モー大丈夫!放牧でいきいき遊休農地活用事業」に取り組む予定です。また,倉敷地域全市町村対象に視察や研修会を行いましたが,その成果から,倉敷市でも実証に取り組みたいとの動きが出ています。一つの実証地から波及効果が広がっています。今回は遊休農地の解消に主眼がおかれましたが,これを起点に将来的には,地域での耕畜連携システムや和牛増頭につなげていきたいと考えています。


図1 実証牧区の位置

表1 遊休農地放牧実証経過