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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

岡山南部家畜診療所 大屋 卓志

 私が,この診療所管内へ赴任して早くも1年が経過しようとしている。よく密かに静かに浸透,蔓延する病気といわれるものとして,人ではエイズ,牛ではヨーネ病などを思い浮かべるであろうが,私の担当地区では疣状皮膚炎が密かに静かに浸透,蔓延しているように思われる。
 疣状皮膚炎はトレポーマ様螺旋菌が原因となり暗赤色,カリフラワー状の肉芽組織が盛り上がり,一見イソギンチャク様を呈する。大きさは母指頭大からピンポン玉大まで様々である。病変部位は蹄踵部側の角質と皮膚の接合部である。症状として起立難渋となり患肢の著しい疼痛のため蹄尖負重を呈することが多い。患肢は何故か後肢で発生し前肢にはみられないように思われる。
 本病は伝染性疾患であるので感染した導入牛から同居牛群に伝染蔓延することが多いとされている。しかしながら発生農家は必ずしも導入牛を搬入した農家とは限らない。分娩,高泌乳,様々なストレスにより免疫力が低下するために発生するのではと考えられる。
 治療としてはゲンチアナバイオレット溶液を病変部全面に噴霧,疼痛の著しい牛ではオキシテトラサイクリン充填脱脂綿で病変部を被覆して伸縮性接着包帯による処置を施す。これらの処置により1〜2回の処置で病変部は崩壊,脱落して治癒することが多い。しかしながら過長蹄や変形蹄罹患牛は削蹄により蹄形と角度を矯正しないと上述の局所処置のみでは治癒しないことがある。
 最近,生体力学の観点からみた削蹄,蹄病処置の重要性が示唆され,正しい負面はかかとをいかにシフトバックできるかということが重要とされている。生体力学では乳牛は体重配分を前肢56:後肢44となっており蹄が悪くなると頭(60s相当)を前に出し前肢への荷重を多くし集合姿勢をとることにより背骨の負重を軽くし後肢を前に出しかかと負重となる。また牛の底骨は垂直に力が加わると,かかと負重となるようにできており過長蹄になるほどかかとの負重が強くなる。このかかと負重を軽減させるため飛節を屈曲させ伸屈筋により球節を曲げ少しでも,かかと負重を緩和すると説明されている。
 過長蹄,変形蹄の罹患牛ではこのしくみが働くことにより病変部が常に牛床と接地し圧痛と汚染が持続するために局所処置のみでは治癒に至らないと考えられる。疣状皮膚炎のみならず,その他蹄病においても正しい負面を形成しかかとをシフトバックする削蹄技術が非常に大切で必要不可欠となってくるものと思われる。
 本病は著明な疼痛のためBCS,泌乳量が低下し経済的損失が大きく他の肢蹄疾患を併発した場合廃用となることもある疾病なので蔓延防止対策も重要である。発生農場においては湿潤不潔な牛床環境を改善しゲンチアナバイオレット,オキシテトラサイクリン注射液溶解70%アルコールを常備し噴霧することが大切である。もちろん我々獣医師も発生農場の出入りの際の長靴等の消毒には細心の注意を払わなければならない。