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〔共済連だより〕

獣医師のお仕事1

真庭家畜診療所 西川 達也

 「は〜い、注射しますから腕を出してくださ〜い」。「えっ、血管注射ですか?どっちの腕にするのですか?」。「右でも左でもどちらでもいいですよ〜」。腕を差し出し台の上に乗せるとゴムバンドで駆血され、「ここの血管がよく見えるからここにしましょうね〜」などと言いながら消毒をして「は〜い、針を刺しますからちょっとチクッとしますよ〜、我慢してくださいね〜。あっ、ちょっと動かないでくださいね〜」。病院での一こまである。患者としては(血管を外さないように上手に注射をしてくれよ)と看護士さんに祈ることしかできず、言われるがままに腕を出して微動だもせずに注射液が注入されるのを見ている。無事に注射が終わって針が抜かれるとホッと胸をなでおろす。たまたま下手な看護士さんに当たってしまったら、、、運が悪かったと諦めるしかない。
 獣医師の診療の中で一番の花形の仕事といえばやはり注射でしょう。学生の頃は、アンプルをアンプルカッターで切って注射器に吸う姿に憧れたものです。ところが実際にやってみると、切ったアンプルのガラスで怪我をしたりと結構難しいものでした。今はワンポイントのアンプルになったのでずいぶんと助かります。ガラスの注射器にも泣かされました。たちの悪い先輩に「これを割ったら今日の日当はないぞ」なんて脅されて、牛が暴れてパキーン。あ〜あ、牛が暴れたのが悪い。今はプラスチックの注射器になったので日当の心配はしなくて済みます。注射の準備も整い、いざ静脈注射。「は〜い、腕を出してくださ〜い」というわけにはいかないのが人と動物の違うところで、まず保定をしなければ注射ができません。
 静脈注射の上手下手は保定で決まります。誰が言ったかは知りませんが「保定8割」と言われるぐらい保定は重要な要素です。ほとんどの農家では静脈注射をすると言えば畜主が保定をしてくれます。慣れたもので、中には「先生は右と左とどっちがえん?」なんて利き手の心配までしてくれる畜主もあります。「どっちでも縛り易い方でええで」と答えられる獣医師は何人いるでしょうか?牛舎の構造や牛の体勢によってはどうしても利き手でない方で注射をしなければなりません。そんな時どうしていますか?変てこりんな格好でしてはいませんか?まっ、ちゃんと血管に注射ができればいいのですが、、、。獣医師の良し悪しは静脈注射で決まります。もたもたしていると畜主は「この先生に任せて本当に大丈夫かな?」と、とても不安になります。だから静脈注射がきちんとできる獣医師がいい先生になるのです。話を保定に戻します。
 保定の基本は、頭部と頚部が固定され頚静脈が十分に確保できることです。鼻輪だけを縛るのは駄目です。必ず頭部から耳の後ろを回してください。鼻鏡か鼻輪が壊れるか、壊れなくても頭が自由に動くので非常に注射がしにくくなります。頚部が固定できない場合も非常に注射が難しくなります。繋留ロープが頚部を絞めるようであれば面倒でも外しましょう。血流が阻害されると静脈炎を誘発するし、なにより注射に時間がかかることで牛に負担がかかります。あまりにもがんじがらめに縛り上げるのもやめましょう。静脈が圧迫されて入りにくくなるし、牛が嫌がって逆に暴れます。特にジャージー牛などは簡単に横転し非常に危険です。そしてもうひとつ重要なのが、ロープは必ず引き解きのできる結び方にすることです。よく見ているととんでもない結び方をしていることがあります。知恵の輪を解くほどグルグル巻きにしてあったり、グルグル巻きにしてある割にグルグルと解けたり、とっさの時に簡単に解けないと思わぬ事故が起こります。牛の力と体重は簡単にロープの結び目を石に変えてしまいます。例えば鎌を備えておくのもひとつの方法かも知れませんが??もしも畜主がこのような保定をしていたら遠慮なしにやり直しましょう。いい獣医師になるために。
 一昔前には盗食防止の柵、最近ではカウコンフォートの牛舎構造により獣医師の処置がどんどんやり難くなってきています。それぞれの現場でそれぞれの獣医師が臨機応変、創意工夫しながらさまざまな処置を実施していることと思います。牛に負担をかけずに最善の処置ができれば共済廃用は激減する?かも?そんなに簡単じゃないか〜。
 こんなことばかり書いていると同僚の獣医師から「今更なにを言よーんなら」とお叱りを受けそうな気もするが、そう思って腹を立てていただければありがたい。
 「は〜い、今日の注射はこれでおしまいで〜す。おだいじに〜」。