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〔普及の現場から〕

新見青年農業者肉用牛研究会のリーダーシップ

新見農業改良普及センター 森山 靖成

 新見農業改良普及センター管内の繁殖和牛頭数は飼育者の高齢化や担い手不足などから、年々減少し、今では10年前の約半数の1,027頭が飼育されています。(昨年に比べて21頭増えました。)
 農家と関係者はこれ以上の飼育頭数減少に危機感を持つなかで、普及センターとしても、「こだわり千屋牛づくり」として、ひとづくりとこだわり飼育技術普及についての取り組みを継続し、和牛王国の躍進をめざしています。

1 ひとづくり(担い手)の核として

 将来、千屋牛生産の中核的な飼育農家になる若い世代の組織化を図り、ネットワークを強化することで、全体の千屋牛生産のレベルアップをねらっています。
 30歳から40歳代の千屋牛飼育農家で組織する「「新見青年農業者肉用牛研究会(会長:伐明昭治 会員13名 繁殖牛飼育頭数150頭)」では課題解決活動や先進地調査研究等を行っています。
 子牛の哺育・育成技術の改善や、肉用牛の改良と肥育技術向上のために、会員独自による枝肉共励会を県営食肉地方卸売市場で開催しています。

2 こだわり飼育技術への取り組み

 千屋牛増頭を推進する上で、放牧技術と超早期母子分離飼育技術が増頭への近道と捉え、普及センターでは、研究会員の工夫事例についてカラー写真満載の事例(アイデア)紹介の冊子「こだわり千屋牛子牛飼育技術」を作成し、管内の肉用牛農家へ全戸配布しました。

 (1) 放牧技術の普及

 遊休農地や転作田等での簡易移動型電気牧柵を活用した飼育管理が低コスト生産に結びつくと思われます。従来、有刺鉄線等で放牧場を囲っていましたが、平成13年以降、電気牧柵の需要が多くなり、市内で26.5ha分の電気牧柵利用放牧が普及しています。
 放牧は足腰の強い、健康な牛づくりにはもってこいの技術ですが、脱柵、流産、ダニによる貧血など常に危険が伴います。牛の観察を綿密にし、異常牛の早期発見、早期対応が欠かせません。

表1 放牧によるコスト低減額

(解説)研究会員の繁殖牛9頭を3haの雑草地
に50日間放牧した場合のコスト低減試算

 (2) 超早期母子分離飼育技術と千屋牛哺育分担システム

 研究会員を中心とした管内の13戸の農家(昨年に比べて5戸増)は、生まれた子牛を分娩後1〜3日で親牛から分離し、カーフハッチ等で超早期母子分離飼育(人工保哺育)を実施しています。中には比較的小規模な繁殖農家もいますが、哺育牛の良好な成育にともなう市場価値や母牛の1年1産の実現を高く評価しています。特筆すべきは、なんといっても子牛の扱い易さが高齢者には安全で好評です。
 超早期母子分離飼育方式導入農家の子牛は自然哺乳に遜色ない発育を示しています、初乳以外の母乳に頼らないため、母牛の能力に関係なく子牛の発育の斉一化が図られています。また、早産で生まれた虚弱な子牛でも十分育成することができるようになりました。最近では、受精卵移植子牛もスクスク順調に育っています。
 研究会員が中心となり、千屋牛哺育分担システムを立ち上げた結果、分娩間隔の短縮化が図られ、繋ぎ牛房の方式への変更で、飼育頭数の拡大が実現しています

3 千屋牛増頭のための新しい動き

 新見市は元来、和牛子牛生産地域としての歴史と伝統があります。現在、企業的な肥育経営体はJA阿新と(有)哲多和牛牧場があり、地域内一貫生産体制のもと、千屋牛肉のブランド化による消費拡大を図っているところです。
 生産者は高齢となり、今までのような飼育管理ができにくくなる中、研究会員が核となり、新しい経営体が飼育管理の一部分(自給飼料生産、子牛哺育・育成、繁殖牛放牧等)を担うなどの方策を関係者で検討し、中山間地における伝統産業としての地位を築き上げたいと考えています。

表2 平均種付回数及び平均分娩間隔の比較(研究会員の大規模農家の成績)