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〔家畜保健衛生所のページ〕

「井笠家保管内の受精卵移植動向について」

井笠家畜保健衛生所

1 はじめに

 受精卵移植が県下で実施されるようになって十数年が経過し,当家保においてもその普及のために様々な取り組みを行ってきました。その間受精卵の凍結保存,雌雄判別,経膣採卵など受精卵移植の周辺技術は著しく向上しより現場の要望に添った卵の供給が可能となっていますが,現場での普及については今一歩伸び悩んでいるのが現状です。今回は平成10年から16年までの管内の移植に関するデータ及びアンケート結果をもとに考察してみました。

2 移植状況について

 図1は平成10年から16年度までの乳牛卵と和牛卵の移植頭数と受胎率の推移を表したものです。12年度は種々の行事が重なり移植頭数・受胎率ともに低下しておりますが,全体的に見ると移植頭数は,10年から14年度までは乳牛卵・和牛卵ともに,30〜40頭前後で推移してきました。
 15年度くらいから和牛卵の需要が増加傾向にあります。逆に乳牛卵は減少傾向にあります。これは,和牛子牛市場の価格が好調で,高能力和牛の飼養意欲が増加したり,16年度は和牛全共の受精卵移植が行われたことなどが影響しているものと考えられます。
 乳牛卵の減少は,地域受精卵研究会の再編過渡期であること,現地乳牛からの採卵数が減少したこと等によるものと考えられます。
 また受胎率は,14年度までは乳牛・和牛卵共に50%前後くらいで推移していましたが,移植頭数の増加に伴い近年は若干低下する傾向にあります。受胎率は移植する受精卵(凍結・新鮮・有償・無償等),時期,飼養方法,経産牛・未経産牛,移植技術者等により波があり,低受胎の場合は原因を1つに絞ることは難しい状況です。

3 卵の需要について

 和牛卵については,平成14年度までは,県の配布する受精卵を主体に移植していましたが,平成15年度からは農家が所有する高能力和牛から採卵して得られた現地受精卵の需要が高まりました。
 また,酪農から和牛繁殖へ経営転換を考えられている酪農家からの和牛受精卵移植の要望が増大しており,雌判別卵も比較的好評を得ています。
 乳牛卵については,平成14年ころまでは県が有償配布する県エリート卵の要望がありましたが,最近は現地で能力の高い現地乳牛卵の需要が高まっています。また特に泌乳能力よりも共進会向けの体型能力を重視した卵が人気です。

4 アンケート結果について

 今回のアンケート調査は,酪農家を対象としたもので,回答のあった8割近くが受精卵移植について実施意欲がありました。
 移植に際して重視する点としては,和牛卵移植については,産子の市場性,受胎率が大半で,次いで卵代,移植料等の価格,販売先の確保と設定金額でした。
 乳牛卵移植については,受胎率,雌雄判別の有無が多く,次いで生産産子の泌乳量・体型と価格等に関する意見がありました。

5 民間移植師について

 管内には10年以上の経験と実績を積んでいるベテランも数人いますが,大半は経験1年から数年の移植師です。比較的若い方は主に自家牛の移植のみをおこなっておられる方が大半です。また,獣医師以外の民間移植師が移植する場合はホルモン処理ができないためベストな状態で移植ができなかったり,一度にたくさんの牛の処理ができないなど獣医師が行う時に比べリスクが多いのも現状です。

6 今後の課題について

 管内では,減少傾向にある和牛対策として酪農家と和牛農家が連携し,受精卵移植を活用した和牛増産への取り組みが始まっており,この酪肉連携による和牛増産システムの定着が望まれます。家保としてもこの取り組みに対し,組織体制の整備のための情報提供,助言並びに採卵・移植技術者の養成,ほ育技術指導等の技術支援を継続実施する予定です。
 また,乳用牛の受精卵については,現地乳牛の採卵個数が不足しており,原因の追及を図り早急に改善し,地域組織の活性化を支援していきたいと思います。
 また受精卵移植の障壁となるものは,労力,金額,卵の価値,受胎率,事故率等で,通常の人工授精に比べややリスクが高いものとなっています。中でも受胎率,金額は最も大きな課題だと思われます。今後は受胎率を向上させることを目指し,少しでも金銭的な割高感を軽減し,民間移植師と連携を密にしながら,手軽に取り組める技術として普及していきたいと思います。