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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

真庭家畜診療所蒜山支所 野矢 秀馬

 乳牛の診療業務において分娩前後に発生する病気は多いものです。代表的なものにはケトーシス,第四胃変位,乳熱,起立不能等があります。そしてその多くは脂肪肝に起因するといわれています。脂肪肝は肝臓に異常に脂肪(中性脂肪)がたまったもので,そして肝臓機能が障害され,代謝障害を併発します。牛の脂肪肝の発生要因として大半は,富栄養状態(過肥)のものが低エネルギー状態に陥った場合に発生するといわれています。肝臓の脂肪蓄積は末消の脂肪組織から動員された遊離脂肪酸(FFA)を肝臓が吸収したものであり,FFAはエネルギーが不足すると肝臓に取り込まれる量が多くなり,脂肪肝の要因となります。肝臓に取り込まれたFFAは中性脂肪に再合成され,肝臓からリポタンパク質として放出されるものですが,牛の場合,肝臓からの放出速度が本来遅く蓄積されやすいといわれています。分娩前後は泌乳という生理的な変化に対しダイナミックに代謝が変化する時期であり,食欲不振となりやすくエネルギー不足を起し,脂肪肝となりやすいものです。脂肪肝の診断は特徴的な臨床症状が少ないため,臨床症状だけからの診断は難しいものがあります。現状では稟告の聴取と血液検査,尿検査,乳成分の調査等を行い総合的に診断を行っています。乳牛の脂肪肝は以前にもこのコーナーで取り上げられているのではないかと思いますが,発生要因がほぼわかっていますので,予防することも可能です。すなわち分娩前に過肥であった牛が何らかの原因で食欲不振となり,低エネルギーの状態に陥った場合に発症することが多いので,予防で重要なことは飼養管理であり,過肥牛にしないことが最も重要なことと思います。適期に種付を行い乾乳期間が長くならないように,また乾乳前(泌乳後期)にはボディーコンディションを整えておくようにし,食欲不振を安易に考えず十分に注意をはらうことが必要です。ところで,獣医師の行う血液検査のうちレシチン・コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)という酵素の測定が近年行われています。LCATは主に肝臓で合成され,血中で遊離コレステロールをコレステロールエステルに変える作用がある酵素です。乾乳期にLCAT値の低下した牛の半数近くが,分娩後1ヶ月以内にケトーシスを発症し,LCATは脂肪肝および関連疾患の早期発見のよい指標になるかもしれないという報告もあります。実際に測定してみると分娩前後に低下しているものが認められました。今後さらに応用されるものと思います。ところで,フォアグラは高級食材として珍重されますが,牛の脂肪肝は病的なものでまったく価値がなく廃棄されます。脂肪肝を予防することは生産性向上の大きな柱の一つです。牛はヒトの言葉を話せません。しかし種々のサインを送っています。肝臓病は症状をなかなか表わしません。特に脂肪肝は症状をあらわすことなく自然治癒しているものも多くあると思いますが,牛のサインを早期に発見し,よみとることで安楽性を考え,牛の能力をさらに引き出すことも可能ではないでしょうか。