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〔普及の現場から〕

耕作放棄地をどう活用するか
〜笠岡市新山地区での放牧実証の場合〜

井笠農業改良普及センター

◇ 増えつづける耕作放棄地と地元負担

 笠岡市の耕作放棄地は,農地の37%を占める。(2000年農林業センサス)
 耕作放棄地の増加に危機感を持つ新山地区では,それを地域の問題として草刈り等の保全を進めているが,年々増える面積,年々衰える体力,燃料費や茶代等の経費も含め地元の負担は年々増加している。

◇ 和牛放牧への可能性

 手が掛からずに農地保全ができ,欲を言えばいくらかの収益があがる。これが地元の理想だ。電牧張りと飲水管理,放牧実証で必要とされる管理は主にこれだけだが,これが果たして牛を飼ったことのない高齢者集団が行う手の掛からない農地保全となるのか?
 今回の新山地区での放牧実証は,これらの検証でもある。

◇ 放牧実証の概要

 笠岡市新山地区,集落の真ん中に小学校や公民館が隣接する大きな耕作放棄地がある。今回の放牧実証は,このうちの45aで,朝夕は多くの通勤・通学者がバスや車から注目している。
 放牧されているのは,和牛2頭,ともに5歳の雌だ。セイタカアワダチソウの他,湿田特有のガマやイグサが生い茂るほ場へ,今年6月末に放された。日々の管理は,近隣住民18名で組織するボランティアグループ「モーモークラブ」が行っている。


小学生や周辺住民も興味津々

◇ 牛の魅力

 放牧後は,学校帰りの子供たちや親子連れなど,見物客が後を絶たない。田園地帯とはいえ,牛を間近に見ることは少ないらしい。初めは怖がっていたモーモークラブの女性たちも,今では大きな声で牛の名前を呼んでいる。
 そして,誰もが驚いているのは,牛の食欲だ。みるみる無くなっていく草を見て,特に大人たちが感心している。


毎日来る人も少なくない

◇ 検証結果

 今のところ,確かに手がかからない。しかし今後はというと,雨でぬかるんだ土,踏まれて食べられない草,一部崩れた畦,これらがどのように影響するか?
 また,環境への心配もある。集落の中心だけに,放牧前には20軒以上の周辺住民の了解を取り付けた。この中で特に問われたのが,臭いとハエの問題だった。放牧後約3週間が経過したが,梅雨時期とも重なり若干の臭いは感じられる。また,ハエも牛に集まっている。今のところ苦情はないが,今後どうなるか注目されるところだ。


梅雨時期にできたぬかるみ

◇ 地元が主役

 今回の放牧実証で目指すものは,畜産振興ではなく,耕作放棄地の保全対策だ。畜産を全く知らない素人の高齢者集団だけで,和牛放牧をうまく利用して耕作放棄地の活用ができるか? 県の補助事業「モー大丈夫!放牧でいきいき遊休農地活用事業」もあるが,現時点では,地域により適したスタイルにアレンジできないと独自の取り組みは困難だ。


地域住民手作りの歓迎看板

 奇しくも今回改正された農業経営基盤強化促進法の中で,遊休農地対策が強く示された。また,食料自給率の向上のために,耕作放棄地の有効利用は重要な位置づけにされている。
 新山地区では,今回の取り組みとは別に,耕作放棄地をいかに活用するかについて地域住民が集まり,話し合いを始めた。放牧用地にするのか,特産物を作るのか。いずれにしても,主役である地域住民の思いの強さがカギとなる。