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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

勝英家畜診療所 井戸 昭一

 毎日診療で現場を回っていると畜主の方よりさまざまな相談や,質問を受けることがあります。
 先日もある農家で畜主の方より,「新生子牛の臍帯の消毒はどんな方法が良いのですか?」との質問に対し,私の頭の中に希ヨ―チンを外側だけに掛けている,へその緒の中までヨーチンを入れてクチュクチュしている畜主の姿が思いだされ,その方法をお話ししました。しかし,和牛の自然分娩子牛の場合は人の関与はなく,はたして母牛はどんな消毒をしているのか臍帯炎の多発も聞きません…?
 へその消毒は本当に必要か,ふと考えてしまいました。
以来,へその消毒ということに疑問を持ちながら診療していると,ある酪農雑誌で「へその消毒はしない」との記事が目に留まり疑問を明快に解決してくれ,質問を受けた農家に改めて解答と注意事項を説明しました。
 その内容は,消毒薬による組織障害の問題と,消毒薬の効果は30分程度しかなく,糞尿やよごれた敷料に接しているとその時間はさらに短く,その後は消毒していない元の状態に戻ってしまい,子牛のへその緒は組織障害による痛みと,穴がふさがりにくくなることが残るというものでした。(感染する機会が増える)
 0.1%の薄いポピドンヨード溶液(イソジン液)が実験室では一番殺菌力が強く菌も殺しますが,動物の細胞も殺してしまいす(組織障害の発生)。
しかし,現場ではさまざまなゴミが存在するためにこのような薄い濃度では役立たず2〜10%で使用されていますし,現場で数多く見かけるのはさらに刺激の強い希ヨーチンの使用です。
 へそは分娩時に引きちぎられ,穴が開いた状態で無防備ですがへその緒の中には菌はいません。分娩後すぐに周辺の細胞が分裂増殖しながら遊走し始めます。牛でも人でも,動物の体は傷ができるとそこをふさごうと,その周辺の細胞が猛烈に働き始め修復工事を行います。
 このことは,あらゆる傷にあてはまり,組織修復,創傷治癒にかかわる細胞の仕事を邪魔しないこと。さらに細胞が仕事をしやすい環境を提供することが傷の治りを早めるポイントです。傷に消毒薬を掛けることは細胞の仕事を邪魔することで,「傷は消毒しない」が正解です。
 また自然分娩で生まれ,尿溝などに落ち汚れている子牛は水道水で洗い拭き取った後,乾燥した牛床に置いてやれば良いと言うことになります。