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〔担い手のページ〕

農業の担い手が難しくなったのは何故か?

岡山県農林漁業担い手育成財団
参与 古好 秀男

 近年,農林水産省の指導の下にあらゆる農業の職種に於いて,その職業をもって農業経営を実施することを農業関係者の間では,今日,違和感なく農業の担い手という言葉で呼ばれています。 
 しかし,担い手という呼び名は農業関係者以外の人は勿論のこと,農業者の間ですら担い手とはどんなことをするのかと尋ねる人が多く,まだまだ認識されていないのが現状です。従来からその土地で暮らす農家が長年,地域の習慣や風習によって培われてきたことにより,後継者という言葉で成り立っているので,おいそれといっても馴染みがわるく,受け入れられるためには時間が必要なのかもしれません。それというのも今では,農業を引き継ぐ者が周囲からもその家の後継者と呼ばれ,世間では一般的に以心伝心として誰でも受け入れてきたものです。水田を守ることは理屈でなく,銭金や損得でやるものではない。生きていくためには先祖伝来の土地を守り,親がしている農業を引き継ぐことが,子供としての責務であり,農業を生活の経営対象として見ることは考えもしなかったのです。
 田畑を耕起する重労働力の主役は,母屋の玄関横にいて寝食をともにしている和牛で,その他総ての農業は手作業でしていた実態は過酷であり,ただ,ひたすら耐えぬき厳しかったのです。
 長い年月には,水害などの天災により水田の畦岸が崩壊して,水が溜まらず,田植えが出来ない時や大事にしていた畑の岸の石垣の崩壊などの修復には,お金を掛けないために,家族総出で何日も掛けて自力で器用に修復したものです。農家は常に倹約を旨として風雪に耐え想像を絶する苦難を乗り越えて農地を守り抜いたのです。
 かゆをすすり,芋を入れた大根めしを食べながら農作業をしている姿を見て,水飲み百姓と云われても,耐え抜き頑張ってきた苦しい時代もあったが,それでも農家は農業を引き継ぐ後継者,担い手に困ることはなかったのです。
 しかし,担い手不足の崩壊の始まりは,社会の誰もが自分の自由の権利を主張するようになってから,農家も農業後継者に対する基本的な考え方が大きく変わってきたのです。若者が農家の後継者を引き継がなくなった理由の第一は,誰でも高等教育を受けることが出来るようになり,卒業後は有名な企業に就職が出来るようになったことです。
 農家としてみれば,沢山の子供の中から安易に誰か農業を継ぐだろうと思い,勉強の出来る我が子の能力次第によっては,大学まで行かせ,優秀な企業に就職させて,親はそれなりに満足して,自分の道を歩かせたが,長男が家を出るならば,僕も私も就職しますといって,最後には誰も農業の跡継ぎに帰らなくなったのです。
 農家も心の片隅には,自分がしてきた苦労の割には儲けにならない農業を我が子にはさせたくない親心が働いているために,都会で成功している我が子に親の口から帰ってきて農業を引き継いでくれとはいえないのです。
 第二には,儲けの追求です。農家が作ろうとする農作目と他の仕事を比較分析して,損得を計算して常に儲けにならないことには,手を出さないようになったことです。
 今日では,広域交通網の発達,燃料のプロパンガス,電化製品,情報網の発達から都会と農村の格差が無くなり,文化的な生活環境が整い,生産物は潤沢にあって物あまり現象も手伝って,儲けの追求から農業を通して経営を比較検討するようになってからは,先祖伝代の農地を放棄したりして,愛着心がなくなり,農地に対する評価が変わり農業をするより儲けに重点を置き,出かけるようになったのです。
 畜産の担い手不足も例外ではない。
 世界の流通経済は,WTOの基本合意に基づいて,我が国の農業基本計画が大幅に見直され,米・麦・大豆,畜産物等の主要農産物の生産に対する考え方が基本的に大規模化推進傾向になり,先ず,最初に篩いになったのが畜産です。
 自給自足で飼っていた庭先養鶏,養豚は早々と廃業したことをはじめ,大型農機具の発達普及から農耕用に活躍していた和牛は急激に減少し,用途も肉用牛となったのです。
 海外に濃厚飼料の輸入に依存している我が国の畜産は,できた飼料作物生産量の良し悪しの影響から常に波乱含みのガラス状態が危惧され危険をはらんでいます。
 最近,酪農を希望する若者が沢山おりますが,健全な畜産経営を実施するためには多頭飼育の大規模化が必要であり,多額の資金が掛かるため,新規就農は容易ではない。就農意欲は充分にあっても,自己資金が不足がちな若者に対して新規の担い手を増やすためには,市町村,農協が中心になって農業公社をつくり,公社自らが積極的に農地保有合理化事業を展開してモデル経営体をつくり,2年以上の経験があり夫婦で新規就農の採択要件を満たし生産意欲のある対象者に農場リース円滑化事業を活用して推進する以外に多額の資金をクリアできる担い手の道はない。
 今こそ,関係機関が総力を上げて,型破りの担い手対策に取り組まなければ,10年後の農業の行く末は,輸入物品が氾濫して想像もつかない厳しい農業の実態が待ち受けていることを警鐘するものです。