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〔普及の現場から〕

“ゆとりと創造の酪農を目指して!
(有)まつだ牧場の取り組み”

岡山農業改良普及センター

1.はじめに

 年々厳しくなる酪農情勢の中にあって,自らの夢の実現に向けて様々な取り組みを行っている「有限会社まつだ牧場(代表取締役:松田渉氏)」を紹介します。

2.牧場の概要

 まつだ牧場は岡山市御津(旧御津町)の岡山空港から約3qに位置する丘陵地にあります。 当牧場は両親が昭和35年に津山市において法人化し,当時40頭規模の酪農を営んでいましたが,宅地化の波が押し寄せ,将来的な展望が見込めなくなったため,昭和46年に現在地に新天地を求め入植しました。それから30数年を経過し,現在では経産牛約110頭と育成牛約50頭,F1肥育牛約20頭,和牛約20頭の経営を夫婦と娘婿の3人を中心に,常時雇用2人を加えた労働力で営んでいます。

3.放牧のみの土地利用

 経営土地については,昭和46年の入植時に22haの土地を入手し,その後昭和52年に3haを拡大して,現在25haとなっています。2haを畜舎用地として利用し,残り23haは山成の傾斜地のため,すべて育成牛や乾乳牛の放牧に利用しており,採草地は一切ありません。

 そのため,搾乳牛の粗飼料はすべて購入に頼っているのが現状ですが,収穫作業に費やす労力を発情発見等の個体観察に回せるメリットがあります。

4.フリーバーン牛舎への改築

 平成14年に従来の繋ぎ牛舎をフリーバーン牛舎に改造し,併せて5頭Wのヘリンボーンパーラーを導入したことにより110頭規模の経営が可能となりました。牛舎内部は戻し堆肥を約1mの高さに敷いたバイオベッドとしています。

 搾乳牛は5群に分けて管理し,第1群は分娩直後から1ヶ月,第2群は1ヶ月から2ヶ月以内,第3群は泌乳ピーク後期,第4群は泌乳後期,第5群は乾乳直前の群としています。第2群と3群で人工授精を行い,それまでに受胎しない牛については,第4群で和牛のマキ牛により確実な受胎を図っています。第5群については管理の省力化のため,搾乳時以外は放牧場に出しています。

5.後継牛は自家育成

 後継牛は全て自家育成しています。山成の傾斜地で放牧管理するため,肢蹄の強い,強健な牛に仕上がり,耐用年数も長くなっています。現在のような高価格の導入牛に頼らなくて済むことから,コスト削減にも役立っています。

6.環境に配慮した糞尿処理の徹底

 糞尿処理については牧場が水系の最上流部に位置することから,下流域の集落に対して絶対に汚水を流さないことが,安定経営を維持するための必須条件と考え,入植当初から先手先手の対策を講じてきました。
 平成元年,2年に糞乾ハウスを1棟ずつ建設し,平成4年までに堆肥舎を2棟を整備して,良質堆肥の製造に取り組んでいます。
 さらに,平成14年にフリーバーン牛舎に改築しバイオベット方式としたことにより,発酵分解によって毎日の搬出量が激減し,また良質な堆肥生産ができるようになりました。

 製品堆肥は袋詰めで年間約5000袋を製造するとともに,他にバラでの出荷が2トンダンプで約70車あり,いずれもJAを通じて水稲や野菜を中心に耕種農家へ斡旋販売しています。
 糞尿処理の円滑なシステムが構築できたため,規模拡大の制約がなくなりました。

7.和牛の南北連携放牧

 当牧場では今後和牛の繁殖部門を取り入れる計画のため,昨年度から勉強の意味で新庄村の和牛を17頭預かり,冬期間放牧しました。
 約7.5haに延べ2080日放牧したことにより,ある程度冬期の牧養力が把握できたため,今後の部門開始に役立てたいと考えています。
 県北の繁殖地帯では冬期間降雪により放牧が制限されるため,温暖な県南に預託することによって,周年放牧が可能になり,飼養可能頭数の拡大にもつながると喜ばれています。

8.ジェラート工房の開業

 自家産乳の有利販売と消費者の顔が見える開かれた牧場になることを目的に,平成17年3月念願のジェラート工房を開業しました。
 放牧場の一画を利用して工房と駐車場,ミニ公園を整備し,工房に訪れる家族がのんびりとした空間と時間を満喫できるよう配慮しています。店内ではシングルコーン・ダブルコーンの2サイズとカップで,季節の果物,野菜などを利用した7種類を常時販売しています。
 開業当初から多くのマスコミに取り上げられたため,これまでに計画を大幅に上回る約4万人が来場しています。


まつだ牧場ミルク工房ホームページ
 (http://www.matsuda-farm.jp/)

9.おわりに

 県南の大型酪農経営として着実に歩みを進めるまつだ牧場が地域のモデルとなつて,益々発展することを期待しています。