ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2006年1月号 > 〔技術のページ〕経膣採卵を利用した体外受精卵の作製技術について

〔技術のページ〕

経膣採卵を利用した体外受精卵の作製技術について

岡山県総合畜産センター
大家畜部 受精卵供給科

 経膣採卵とは,採卵針を装着した超音波装置を利用して牛の卵巣から直接未受精卵子を採取した後,体外受精を行い受精卵を作製する技術です。今回は経膣採卵を利用した体外受精卵の作製方法について紹介したいと思います。

1.経膣採卵の方法

 採卵牛の膣内に超音波プローブを挿入し,卵巣を超音波診断機に映し出します。その画像を見ながら,採卵針を膣壁を通して卵巣の卵胞に注意深く突き刺します(図1)。うまく卵胞に突き刺すことができたら,吸引ポンプを用いて卵胞液ごと未受精卵子を吸い出します。これらの作業を数回〜数十回繰り返し,吸引可能な卵胞がなくなったら採卵終了とします。


図1 経膣採卵の様子

2.体外受精卵の作製

 経膣採卵で未成熟卵子を採取することができたら,その卵子を使用可能な受精卵まで成長させることが必要です。体外受精卵作製の手順は次のとおりです(図2)。


図2 体外受精卵ができるまで

 回収した未成熟卵子を培養して成熟させた後,体外受精を行います。体外受精後しばらくして,卵子に付着した卵丘細胞などをはがしていきます(この作業を裸化と呼びます。)。その後7日間前後培養して,使用できる受精卵に成長させます。成長した受精卵は,そのまま移植したり,雌雄を判別したり,凍結保存したりすることができます。

3.経膣採卵のメリット,デメリット

 それでは経膣採卵は通常の採卵と比べてどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。一覧表を次に示します(表1)。


表1 経膣採卵のメリット、デメリット

 まず,経膣採卵のメリットから説明します。通常の採卵は1ヶ月に1回しか実施することができませんが,経膣採卵は基本的に1週間に1回実施することができます。1回の採卵数は通常採卵のほうが多いと言われていますが,期間でみた場合は経膣採卵のほうが効率がよいことになります。経膣採卵は直接卵巣から採卵するため,性周期に左右されることはありません。したがって,採卵を決断してから実際に採卵するまでの期間は,通常の採卵よりも非常に短くてすみます。また,通常の採卵のように人工授精を行う必要がないので,無発情牛などの繁殖障害牛や春期発動前の若齢牛でも卵巣が正常であれば採卵可能です(ただし,直腸検査ができる程度成長している必要があります。)。加えてホルモン剤を使用しないため,妊娠牛でも採卵可能です。
 次に,経膣採卵のデメリットを説明します。
 体外受精卵は通常の受精卵に比べて流産が多いと言われています。また長期在胎の場合,まれに過大子が生まれる可能性があります。通常の受精卵と比べて凍結卵の受胎率が低いと言われています。また,卵巣から直接卵子をとるという行為から,その後の繁殖成績が低下する危険性があります。
 このように,経膣採卵には様々なメリット,デメリットがありますが,デメリットについては細心の注意をはらって実施することで回避できることが多く,またメリットはそれを補ってあまりあるものだと思います。

4.経膣採卵利用状況

 最後に,これまで当センターで実施してきた,農家所有牛の経膣採卵実施状況を示します(表2)。


表2 農家所有牛の経膣採卵実施状況

 現在まで11頭の牛の預託を受け,43回の経膣採卵を実施し,269個の体外受精卵を作製しています。1頭あたりにすると,3.9回の採卵で24.5卵の受精卵を作製している計算です。現在,平成14〜15年度に預託を受けた繁殖障害牛から最低1頭の雌産子が得られています。人工授精や通常の採卵では後継牛が作製できない牛に対して活用すれば,大いに期待できる技術だと思います。