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〔家畜保健衛生所のページ〕

和牛採卵成績向上への新たな取り組みについて

岡山県高梁家畜保健衛生所

1.はじめに

 受精卵移植技術を利用し,和牛生産を希望する酪農家がここ数年増加しており,数年前に比較して和牛受精卵の需要が高まっています。こうした需要増加に対応するため,高梁家畜保健衛生所では和牛受精卵の回収率をアップさせる方法に取り組み,その有効性が認められる成績が得られましたのでその概要を紹介いたします。

図1 E2B製剤を利用した SOV プログラム

2.方 法

 図1の上側が従来のETのプログラム(以下従来法),下側が今回高梁家保で取り組んだプログラムを示します(以下 E2B 使用法)。過剰排卵処置はいずれも FSH24AU の3日間減量投与法(以下 SOV)で行いました。
 大きな違いは,エストラジオール製剤(以下 E2B 製剤)を使用していることです。この E2B 製剤は,卵胞を閉鎖させ次の卵胞の発育を促します。この時に発情を抑えるため持続性黄体ホルモン製剤(以下 CIDR)の挿入を行います。加えて排卵時期をそろえる目的で,Gn−RH 製剤の投与も人工授精(AI)の直前に行います。この方法により一度にたくさんの卵胞が発育し,回収卵数・正常卵数が増加することをを期待しました。

3.成 績

 表1は従来法で行った平成11〜13年度の成績(一番上の段)と E2B 使用法を実施した平成15〜17年度の成績を比較したものです。その結果1回の平均回収卵数は9.5卵→26.5卵,平均正常卵は5.9卵→14.9卵と増加しました。

 表1 E2B 製剤使用別採卵成績

 表2は E2B 使用法での年齢別の成績を示しています。12歳を越えると回収卵数,正常卵数共に減少する傾向がみられましたが,従来法に比べると,良い成績が示されています。

 表2 年齢別採卵成績

 表3は平成16及び17年度の回収卵の内訳を示しています。2年間の合計13頭の回収卵での受精卵率は83.2%と高い受精率となりました。ただ,受精卵のうち,変性卵が2割以上あり,今後改善されればより多くの正常卵が回収可能と考えられます。

 表3 回収卵の内訳

4.経 費

 農家で一番気にかかる経費について表4に示します。

 表4 採卵経費の比較

 従来法では1回の経費は16,850円・1卵あたり2,856円となります。E2B 使用法では追加の資材費が加わるため,1回の経費は20,078円となりますが1卵あたりに換算すると1,348円と常法の1/2以下となりました。

5.まとめ及び今後の課題

 今回取り組んだ E2B 使用法は,@回収卵数・回収卵率ともに増加し,A1卵当たりの経費は従来法の1/2以下(2,856円→1,348円)となるなど,非常に良好な結果となりました。
 高齢牛に対する採卵成績も従来法と比較し良好であり,育種価の高い高齢牛に対する応用が期待できます。
 今後は,変性卵を少なくしてより多くの正常卵を回収すること,省力化でき牛へのストレスの少ない方法の活用等(ワンショット過剰排卵誘起法)を検討していきたいと思います。