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〔普及の現場から〕

「山羊」を活用した中山間地のあぜ管理の省力化への取り組み
〜家畜利用による除草・植生制御システムの確立を目指して〜

高梁農業改良普及センター

1 はじめに

 中山間地域の高梁管内は水田畦畔の法面が大きく,年に数回の草刈り作業は大変な重労働となっています。
 農地管理の中で負担を感じる作業のトップに挙げる農家が多く,高齢化や担い手の減少と相まって遊休農地増加の原因にもなっています。
 近年,カバープランツ等を利用した畦畔の省力管理について,各地でいろいろ取り組まれていますが,その対策の一つとして「山羊」を利用した雑草抑制管理・植生制御の実証を普及センターとしてH16〜H17年にかけて役場・地域と連携し現地で試みましたのでその状況等を紹介します。

2 「山羊活用」のねらい

 省力管理と農地の荒廃防止・有害獣の出没抑制等をねらった遊休農地への「和牛」放牧を県下で普及(高梁市有漢町川関地区でも実施中)推進していますが,「山羊」は,@急斜面でも昇降可能 Aあぜを崩さない B体格が小さく管理し易い C導入経費が安価等,の特徴と地区の状況・意向等が結びつき今回の実証の運びとなりました。

3 取り組みとその経過

 (1) 実施場所 高梁市有漢町鈴岳地区の棚田
 (2) 実証経過

 ・典型的な中山間地域の野イバラ等雑草に覆われた急峻な棚田畦畔を柵(ワイヤーメッシュ)と金網で囲み(最初は約3a),平成16年4月30日に山羊(雑種)3頭を放飼しました。


囲った急峻な中山間地のあぜ

 ・その際,簡易な風雨よけの山羊小屋(スノコ敷)と水飲み場を設置しました。


簡易な山羊小屋を設置

 ・ほとんどの雑草を食べ尽くした5月18日に放飼エリアを(約5aに)拡大しました。
 ・5月28日には全畦畔(約10a)を囲い,その後,草勢や山羊の状況観察を継続して行いました。(冬場も野菜クズやオカラ等の補助飼料を与え,屋外で飼養)
 ・また,柵を設置せず,草刈りをさせたい畦 畔部分に山羊を簡単に連れて行く,簡易移動繋牧方法も試みました。


ハーネスを付けロープワイヤーへ繋ぐ

 ・1年経過した平成17年5月下旬に,一部裸地化した法面に崩壊防止対策を兼ねセンチピードグラス(セル苗)を補植しました。


裸地部分センチピードを補植

・その後,定着(活着)化や山羊放飼と組み合わせた植生制御の状況を継続して観察しました。


活着・繁茂するセンチピード

4 成果の概要・考察

 (1) 急傾斜の畦畔にもかかわらず山羊はエリア全体を歩き回り,法面の崩壊は見られませんでした。(山羊の通い道はつけましたが)


柵沿いに山羊道を形成

 (2) 除草(草刈り)効果は期待以上で,特に草刈りの際に支障となる野イバラやクズといった広葉の雑草から山羊は好んで食べ(採食草量5〜7s程度/1日1頭)笹や固いススキ・カヤは最後になるようですが,人手による草刈り作業は大変軽便になりました。


山羊の草刈り効果全景

 (3) 山羊は飼養管理が容易で,数年間放置され和牛放牧ができないような遊休農地等へ放せば農地の復旧だけでなく景観保全にも役立つと思われます。
 (4) 山羊を囲内放飼する場合,頭数や期間は畦畔の面積・形状,草種・(エサとしての)草量によって調整が必要で,さらに区割り等を細かくすれば効果的な草刈りが可能と思われました。
 (5) 草の多い夏場,短期間の繋牧(杭・ワイヤーへロープ・チェーンで山羊を繋ぎ,簡易な日よけと飲み水を設けてある程度自由に移動できるようにした)も試みました。
   しかし,ロープ等が絡まっても自分ではずすことができず動けなくなるトラブルが多く,特に急傾斜地では定期的な観察(見守り)が必要なことが分かりました。
 (6) 経費については,山羊(雑種の去勢)の調達に1頭5千円〜1万円程度,囲いの資材(ワイヤーメッシュ・金網等)に約5万(10a当たり),繋牧ではワイヤー・ロープ等に約5千円かかりました。
   また,冬期間も屋外飼育を行いましたが,補助飼料を購入すればその費用が必要です。
 (7) 補植したセンチピードグラスは活着し,伸長した葉先を山羊に食べられながらも繁茂,株からランナーを伸ばした晩秋までの良好な生育状況を確認しています。
   現在,地上部は枯れていますが2年目の状態や植生管理について,継続・調査していきます。

5 おわりに

 「山羊」利用による草刈り作業の省力効果と手間や期間コストの評価,「山羊」そのものの経済性(乳・肉利用)や流通面(調達・販売)等の未確立な点,草刈り用家畜バンクの体制づくり等,今後検討すべき課題は多くあります。
 しかし,農地保全の担い手(労力)不足を補う手段として,特に立地条件の厳しい中山間地域の畦畔管理(主に草刈り作業)において「家畜」の能力を活用した省力化技術の組み立ては,これからの時代に合った取り組みの一つと考えられ,そのシステム確立の一助になればと思います。