ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2006年2月号 > 〔技術のページ〕和牛肉の脂肪酸組成について |
和牛肉は,交雑種等の他の国産牛肉,輸入牛肉に比べて風味がよく,多くの人からおいしいと評価されています。
和牛肉の質は,霜降りと呼ばれる脂肪交雑の多さがその良否を決める大きな要因ですが,脂肪交雑は同じ程度であっても脂肪質の違いにより,実際の食味に差があることが知られています。
牛肉の食味とは,風味,口触り,柔らかさ等であり,これらを左右する大きな因子の1つが牛肉中の脂肪の質,すなわち脂肪酸組成です。
今回,県枝肉共励会,共進会への出品牛を材料に,県内で肥育される和牛について脂肪酸組成を分析し,現状と遺伝的影響を調査しましたのでその概要を紹介します。
脂肪の質は飽和及び不飽和の脂肪酸の割合によって変化し,不飽和脂肪酸が多いと脂肪融点が低くなり,口触りや,柔らかさも増すことが知られています。
中でもオレイン酸(C18:1)は牛肉脂肪中で最も割合が高く,牛肉中のオレイン酸含量と牛肉の風味には高い相関があると言われています。
調査した牛の脂肪酸組成と性別の関係は表1のようになり,雌牛が去勢に比べて不飽和脂肪酸の割合がやや多い結果となりました。
牛では月齢が進むにつれて脂肪に占める不飽和脂肪酸の割合が高くなることが知られており,今回の調査牛でも同様の傾向が見られました。(図1)
図1 月齢と不飽和脂肪酸割合
また,どの出荷月齢でも雌牛が去勢に比べて不飽和脂肪酸割合が高い傾向が見られ,脂肪酸組成には性差があることが伺えました。
種雄牛は,その産子の枝肉に脂肪交雑や枝肉重量などに大きく影響する大きいことが分かっていますが,脂肪質へも影響することが知られています。今回調査した去勢牛について種雄牛別にオレイン酸割合を比較したところ,図2に示すように父によって差が見られました。
図2 種雄牛とオレイン酸割合
最も高い種雄牛Aの産子と最も低い種雄牛Eの産子では,約4%オレイン酸割合に差があり,種雄牛による脂肪酸組成の違いが肉の口触りや風味にも影響する可能性が伺えました。
牛では以前に紹介した成長ホルモン遺伝子やSCD遺伝子で,同じ和牛の中にも異なる型が確認されています。今回はSCD遺伝子について調査した結果を紹介します。
SCDとは,ステアロイル−CoAディサチュラーゼといい,体脂肪の脂肪酸の不飽和化に関わる酵素の1つで,牛のSCD遺伝子は,一部のアミノ酸がアラニンの型とバリンの型の2つの型が確認されています。(図3)
図3 SCD遺伝子型
SCD遺伝子型について,同一種雄牛の産子で遺伝子型別の不飽和脂肪酸割合を比較したところ,遺伝子型によって脂肪酸組成が異なり,図4のように種雄牛アではヘテロ型の産子がバリン型ホモに比べて有意に高く,また,種雄牛イはアラニン型ホモの個体がヘテロ型に比べ有意に高い結果となり,SCDではアラニン型になるほど不飽和脂肪酸割合を高くする傾向が見られました。
図4 SCD遺伝子型と不飽和脂肪酸割合
また,調査牛のSCD遺伝子の頻度は,アラニン型の遺伝子が多い結果となり,食味上好影響の遺伝子が多いことが伺えました。(表2)
和牛肉は,他の牛肉に比べて値段も高く,高級品として相応のおいしさを期待されています。
そのおいしさは脂肪の質だけで決まるものではありませんが,岡山和牛の食味を改良する上で脂肪酸組成は重要な要素であり,産肉形質とともにその遺伝的特徴を把握する必要があると考えています。