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〔共済連だより〕

予防衛生に勝るものなし

岡山西南家畜診療所 考査主幹 藤井 多加治

 臨床獣医師になって26年を経過しようとしている。最近,「完治」したと自信をもって言える症例が非常に少なくなったと思う。一度,乳房炎を発症すると,解熱し食欲は回復すれど,乳房の硬結・腫脹はなかなかとれず,乳房炎軟膏を何本も注入し,乳房が皮膚炎を起こすほど湿布剤を塗りたくる。されど,乳質検査で,体細胞数が何百万,いやひどい時には無限大に出て,とてもヒトの口に入れられる商品とは成り得ない。それでもなんとかならぬものかと,治療費と労力をつぎ込むものの結局「完治」することなく慢性化し,盲乳にするか或いは,だましだまし乾乳まで辛い搾乳をすることとなる。治療にあたった獣医師も辛いが,農家の方は二重の損となりもっと辛いのである。耐性菌によるものなのでしょうかねぇ。
 もう一つ,空胎期間が延長したために過肥となり,やっと分娩するも起立不能に陥り,Ca製剤投与により起立,「完治」?と思いきや胎盤停滞で発熱,抗生剤の注射で解熱・食欲回復,「完治」?いやいや,ケトーシスとなり糖の補給で食欲回復,「完治」?と思うが急に食欲低下,今度は第四胃変位,手術によりやっと「完治」ですが,乳量はのびず次の発情を待つも卵巣静止で無発情。あ〜ぁ,ひどい! これでは今までの努力と経費がパァーです。
 これらの例のごとく,本当に治癒することが少なくなってしまったのです。そこで,これらの無駄な?治療費と労力を少しでも少なくする。これこそがこれからの経営に大きく影響することではないでしょうか。
 それには,疾病予防,予防衛生が必要となります。例えば,乳房炎対策として個々の牧場でどのような細菌が検出されるのか,有効な抗生剤は何があるのか等,ある程度把握していく必要がありますし,泌乳期間に乳房炎に罹患したことのある牛は,乾乳に入る時検査し,徹底的に治療するなどが必須となります。しかし,予防衛生といっても原因の究明,対策,治療といった一連の作業ととらわれやすい事柄ですが,これらの項目を診療所の担当獣医師一人,或いは診療所数名ではとても消化しきれず,中途半端になりやすくなります。酪農組合,家畜保健衛生所の諸先生方を含め,共済家畜診療所,共済臨研が原因と対策について協議し,実行に移していくことが最も有効で大きな成果をあげることが出来るものと考えます。ましてや,ポジティブリスト制度の導入で生乳生産者は衛生管理チェックシート,動物用医薬品の投薬記録,資材交換・牛舎消毒の記録,飼料給与記録など,ものすごい量の記帳をしなければならなくなりました。
 我々臨床現場獣医師も,抗菌剤や一部のホルモン剤,一般治療薬の一部の記録を残さなくてはなりません。疾病が少なくなれば,これらの記録作業も減るわけですから予防衛生に勝るものはありません。これからは,農家と関係機関が一体となって取り組もうではありませんか。一つでも欠ける機関があれば,うまくいかないのは目に見えているではありませんか。困るのは農家の皆さんなのです。