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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

岡山西部家畜診療所  畦崎 正典

 明日が締め切りだというのに,何も頭に浮かんでこない。こうなれば家畜診療日誌の名前のとおり日誌を書くしかない。そこで,共済獣医師歴20年のうちまだ新米だった頃を思い出し,今から考えれば自分なりにおもしろかったと思う話を書いてみようと思う。
 ○月×日,朝一番の診療のあといつもの様にお茶のお誘いが農家よりあったときの事,「先生,ええもんがあるけえ食べねえ。」と出されたのはひらめ(アマゴ)の塩焼きとうるか(内臓の塩辛)だった。「こりゃあ酒でも飲みとうなるなあ。」と言うと同時に電子レンジの「チーン」と言う音。いやいや朝から酒なんて飲んでませんよ(?)。
 △月○日,「先生,コーヒーが好きじゃろ。ええコーヒーもろうたんじゃ。お湯にとけにくいんじゃけど美味しいらしいで。」出されたコーヒーはインスタントではなく本格的な豆を挽いたもので,カップの底に豆が沈殿していて非常に飲みにくかった。
 ×月△日,牛の様子がおかしいとの連絡で往診した時の事,「おばあさん,餌もよう食べようるけど,どこがおかしいん。」と言うと,「この牛,年とってしもうて,歯が抜けてしもうたんじゃ。もういけんじゃろうか。」口の中を見ても歯がぬけている様な形跡はなく,「どの歯が抜けとるん。」と聞くと前歯だと言うので,「おばあさん,牛は生まれた時から上の前歯はねえんで。今まで知らなんだん。」「生まれた時から私みたいに歯がねえんじゃなあ。ええこと聞いたわ。」と,おばあさんはあわなくなった入れ歯をがたがたさせて笑った。
 □月△日,難産との連絡で往診に行った時の事,「先生,はよう来てえ。」見ると子牛が出ないように押さえているのである。「はよう手をどけねえ。」と言い,助産をしたあと「何であんな事しとったん。子牛が死んでしまうで。」と言うと,「先生が来るまでに生まれたらいけん思うて。」いやいやかわった事を考えるものである。
 △月×日夜,「先生,産んだ牛の子宮が出てしもうた。はよう来てえ。」と往診依頼がある。あわてて農家へと往診に行くと,「大変じゃ。今,子宮が落ちてしもうた。」どうも様子がおかしいので,牛舎の方へ行ってみると親牛は元気にその落ちた子宮を食べているのである。「おじさん,のどへつかえたらいけんけえ,はよう取りねえ。」そう,おじさんの言う子宮とは後産のことだった。
 ×月△日,ある農家へ往診中の事,近所の農家から直接電話がかかってきた。「先生,産んだ親牛のお尻から変なもんがぶらさがりょうるんじゃけど,帰りに見によってくれんかなあ。」どうせ後産だろうと思ったのだが,行ってみるとそれは明らかに子宮だった。電話をしてきたおばさんを探しても誰もいない。幸い子宮全脱ではなく,また牛も起立していたので何とか一人で整復することができた。ほっとしている所へ農家のおばさんが帰ってきた。「おばさん,どこへいっとったん。ぶらさがりょったのは子宮じゃが。ほっとったらあぶなかったで。」それを聞いたおばさんは笑いながら一言,「ありゃあ。わたしゃあ,後産かと思うて,鍬を引っ掛けて引っ張ろうか思うたんじゃ。引っ張らんで良かったわあ。」誠にのんきなものである。
 最後までおもしろくもない話を読んでくださいまして,誠にありがとうございました。