ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2006年4月号 > 〔普及の現場から〕遊休農地放牧を取り入れた省力管理への取り組み |
倉敷管内は,和牛繁殖牛頭数が非常に少ない地域ですが,肥育経営からの転換や繁殖肥育一貫経営の導入により,増頭の兆しが見え始めています。そのような中で,総社市では,昨年紹介したとおり,遊休農地放牧実証展示を行いました。その成果により,なじみの薄かった和牛放牧についての関心が高まり,「モー大丈夫!放牧でいきいき遊休農地活用事業」に取り組むことになりました。17年度の成果について紹介したいと思います。
総社市での遊休農地放牧の推進は,@放牧を取り入れた和牛繁殖経営の省力化と低コスト化,A省力管理による増頭,B遊休農地の解消と景観保全などをねらいとしています。事業主体は総社市で,放牧用施設(電気牧柵等)を整備しました。
放牧実施にあたり,肉用牛農家で組織する部会を通して,説明会を開き,実施希望者を募集しました。しかし,思った以上に畜産農家側の周辺環境に対する影響への不安が大きく,希望者はすぐには出ませんでした。その後,個別に説明,相談を行ったところ最終的に1戸の農家が実施することになりました。
遊休農地は,実施農家と総社市で調整し,牛舎近くの棚田約40aを放牧地に決めました。土地所有者とは放牧協定を結び,関係機関と現地調査を行い,放牧準備を始めました。
まずは,妊娠鑑定後の繁殖牛2頭を候補牛に選抜しました。2頭とも除角済みであったので,同一房での飼育と青草給与から始めました。
次に,放牧適性と電気牧柵への馴致及び先生牛の必要性を確認するため,事前の放牧馴致を行いました。2頭とも導入牛で,過去に放牧経験があるのでは(未確認)ということから,方法は牛舎脇の荒れ地を電気牧柵で囲って行いました。関係者が集まり,危険性に注意しながら2頭を入れ,観察したところ,最初は興奮気味でしたが,次第に落ち着き,野草を食べ始めました。電牧線へは自分から近づき,触れて驚いた様子でしたが,慌てることなく,採食を続けていました。この様子から,電気牧柵放牧は可能で,先生牛も必要ないであろうと判断しました。
放牧馴致の様子
約40aの外周を電気牧柵の2段張りで囲い,中程を1本の電牧線で2牧区に分離しました。(広すぎるためと,きれいに野草を食べ尽くしてもらうために小牧区に分離しました。)
飲み水は湧き水を利用し,給水作業はなくしました。
設置後すぐに放牧を開始しましたが,牛は数回電気牧柵に触り驚いていましたが,あきらめて採食を始めました。
毎日の観察と補助飼料の給与を飼い主が行うことに決め,放牧を開始しました。
放牧中
放牧前
牛は入口付近のクズやササから食べ始め,徐々に奥の方へ移動し採食していきました。
16年度の実証展示の際に借りた総合畜産センターの放牧牛は採食スピードが非常に速かったのですが,比べてみると遅い感じでした。それでも徐々に慣れたためか,後半からスピードが上がり,49日間の放牧でほとんどの野草を食べ尽くし,終牧しました。
昨年の実証と同じように,セイタカアワダチソウやススキなどの茎のみが立っているだけの状態になりました。
飼い主の話では,毎日エサやりの時に呼ぶと最初はすぐに寄ってきたものの,次第に呼んでも来なくなり,そういう時はエサもやらずにほうっておいたそうです。
飼い主からは,「これほど手がかからないとは思わなかった。」という話が聞かれるようになり,心配されていた周辺環境への影響も問題がなかったことから,最後には「これなら今後も続けて,放牧を経営に取り入れたい。」と話すようになりました。
このような成果から,18年度も同一農地で放牧を継続することと,面積拡大も計画しています。
放牧後
今回は少々無謀なところもありましたが,過去に放牧経験のある牛であったためか,短時間で問題もなく成功したものと思います。
そこで,放牧実施のポイントをまとめたのでここに記載します。
(1)青草馴致
青草への切り替えは,牛舎内で徐々に行います。
(2)除角と同居
2頭以上で放牧するので除角は必要です。また,事前に同居させて,相性を調べておくことも大切です。
(3)電牧馴致
無理に電牧線に触れさせるのではなく,自然に自分から触れてわからせる方が,異常な警戒心やパニックを引き起こさないように思われます。そのためには,広めの場所で行う必要があります。
(4)放牧馴致
今回は1度の放牧馴致で開始しましたが,外での生活や野草の採食が可能であるかを判断するためには,ある程度時間をかける必要があります。
(5)放牧適性
放牧馴致中に,脱柵や異常な警戒をするようであれば,その牛の放牧はあきらめます。
(6)先生牛
放牧経験牛を先生牛にして一緒に放牧馴致させると早く覚えます。
(7)協力体制
関係機関で協力体制を確立し,それぞれの得意分野で放牧実施のサポートに当たることが,放牧の成功と地域への波及効果を盛り上げるのに有効です。
総社市の遊休農地放牧への取り組みは始まったばかりで,畜産農家戸数も少ないため,すぐには広がらないとは思います。しかし,レンタル放牧なども取り入れながら,総社市にあった方式を確立し,畜産経営の発展に役立てたいと考えています。