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〔技術のページ〕

鶏肉発酵調味料の血圧上昇抑制作用について

岡山県総合畜産センター  栗木 隆吉

1 はじめに

 国民の健康指向を背景に,食品の機能特性(生体を調節する働き)に対する関心が高まっています。畜産物でもいろいろな働きが明らかとなっており,その概略については本誌2003年3月号に紹介しました。今回は,当センターが工業技術センターやくらしき作陽大学と共同で開発を進めている鶏肉発酵調味料の機能特性について紹介します。
 さて,本県は採卵養鶏が盛んであり,約700万羽の採卵鶏が飼養されています。その廃用鶏(廃鶏,親鳥ともいう)は食肉利用されますが,需要は低迷し,新規用途開発が強く求められていました。そこで,私たちは鶏肉を主原料とした発酵調味料の開発を進めてきました。
 一方,動物性の発酵食品であるチーズや魚醤では,血圧の上昇を抑えるアンジオテンシン変換酵素( ACE )阻害活性や生体の老化防止につながる抗酸化活性などが知られています。鶏肉発酵調味料についても高い ACE 阻害活性や抗酸化活性の指標である DPPH ラジカル消去能を認めており,機能性食品としての開発が期待されました。
 高血圧になると食塩の摂取量を制限されるため,患者の皆さんは味気のない食生活を送らなくてはなりません。鶏肉発酵調味料は通常の醤油と同程度の塩分を含んでいますが,摂取による血圧上昇を抑えることができれば,高血圧患者の生活の質( QOL )の確保に役立ちます。
 そこで,ヒトの高血圧モデルとして開発された高血圧自然発症ラット( SHR )に対する鶏肉発酵調味料の効果を調べました。試験では,鶏肉発酵調味料の希釈液を飲水として不断給水したとき(試験1),及び発酵期間の異なるものを同様に不断給水したとき(試験2)の血圧抑制効果を検討しました。

2 鶏肉発酵調味料の製造方法

 鶏肉発酵調味料は,原料として鶏肉,小麦麹,食塩,ブドウ糖,水,酵母液,酵素剤を用います。
 製造方法は,鶏肉及び水,食塩,ブドウ糖を混合して加熱し,95℃で30分間殺菌します。その後,40℃まで冷却し,麹及び酵母液,酵素剤を加えて良く混合し,30℃に保温しながら発酵させます。
 試験試料には,この諸味をろ過し,湯煎にて85℃,15分間加熱したものを用いました。

3 SHRを用いた試験の方法と結果

 試験には,16週から30週齢の SHR(日本エル・エス・シー株式会社)のオスを用いました。SHR は25±0.1℃で飼育し,餌は SP 飼料(株式会社船橋農場)を与えました。
 試験試料として鶏肉発酵調味料を蒸留水で20倍に希釈し,飲水として次のとおり与えました。SHR は試験開始まで蒸留水を与えて馴致し,試験開始前の測定後直ちに試験試料に切り替えました。給与期間は,試験1では3日間,試験2では7日間とし,その後,再び蒸留水に戻して観察しました。試験1で用いた鶏肉発酵調味料の発酵期間は12週であり,試験2では0,2,4及び6週でした。
 また,試験1では比較対照として蒸留水を連続して与えた区を設定しました。
 SHR の血圧は,図1のような装置により尾動脈血圧及び心拍数を無麻酔下非観血的に測定しました。
 次に結果を紹介します。
 給与した鶏肉発酵調味料の成分は,100gあたり全窒素1.0g,食塩濃度(ナトリウム換算法)15.2gでした。
 図2に,試験試料20倍希釈液を SHR に不断給水したときの血圧に対する効果を示しました。蒸留水から試験試料に切り替えて1日で血圧は平均で80oHg程度低下し,試験試料を給水している間は変わりませんでした(p<0.05)。また,試験試料から蒸留水に切り替えると,翌日には試験開始前の血圧まで上昇し,鶏肉発酵調味料に SHR の血圧を低下させる強い効果が確認されました。また,この時,調味料を与えた区と蒸留水を与えた区で SHR の体重や摂食量に差はありませんでした。
 図3に,試験2の結果を示しました。発酵0週の試験試料では,試験期間を通じて開始前の血圧と変わらず,170から180oHgの高い値であり,試験試料の血圧抑制効果は認められませんでした。しかし,発酵2週以降の試験試料ではいずれも給与開始から血圧の低下が認められ,2日後に最も低くなり,試験1と同様開始前の血圧と比べて70から80oHg低下しました。また,この値は試験試料の給与している間はほとんど変化せず,蒸留水への切り替えにより翌日には開始前の血圧まで上昇しました。


図1 SHRの血圧測定

4 まとめ

 厚生労働省が発表した平成16年度国民生活基礎調査によれば,人口1,000人当たり高血圧症で通院している人は,男76.3人,女85.4人となっています。これから推定して国内の高血圧患者は約1,000万人で,その医療費は1.9兆円にのぼります。今後,更に高齢化が進み高血圧症の患者は増えると予想されており,その対策が求められています。
 前述したように SHR に対する鶏肉発酵調味料の血圧抑制効果は顕著でした。鶏肉発酵調味料は治療薬ではありませんが,ヒトの健康に影響することから製品化については慎重な検討が必要です。一般に SHR を用いた試験の結果は,ヒトでの効果とよく一致すると言われており,この調味料も大いに期待されます。機能性食品として開発を進めるためには,ヒトでの摂取試験とともに,作用成分の特定やその評価方法を確立する必要があります。現在はヒトでの摂取試験を行っているところで,近いうちにその結果をご紹介できると思います。