ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2006年4月号 > 天角地眼鼻たれて

天角地眼鼻たれて

片寄  功

 和牛をみるのは趣味ではないが,楽しみである。しかし,登録検査や共進会で,農家の皆さんが丹誠こめて飼育され,高得点や上位入賞を期待して出品された牛を審査・採点するのは楽しみどころではなかった。
 「天角地眼鼻たれて,一黒鹿頭耳小歯違う(一石六斗二升八合)」。これは,和牛の良否鑑識法を相牛(審査ではない)といい,体型・資質や性質あるいは健康状態などを判断する一つの歌で,古くから技術者の間で尊重されてきたもので,和牛をみるときの参考にと,今から約40年前に教えられたものである。
 天角とは,角が天を向いているという意味で,雌の角は「い」の字型,雄は「ハ」の逆字型が良いとされ,地眼とは,キョロキョロせずに前方の地面をじっと穏やかに見ている(性質温順)のが良いとされている。鼻たれてとは,鼻鏡がぬれている(牛が健康)ということで,牛は病気で体温が上昇すると鼻鏡が乾くことは周知のとおりである。一黒とは,黒毛和種の特徴である黒の一枚毛を示す。鹿頭とは,鹿のような優しい賢そうな頭の形をして,しかも,耳は小さく,皮膚が薄く体つきがキリッとした牛は資質も良いとされた。また,歯違うとは歯をすり違えているという意味で,常に反すうを繰り返しているような牛は健康であるという説明であった。これは今でも大切にすべきものであると思っている。
 最近でも,仕事の関係で,時々和牛を見る機会に恵まれるが,それは「天角地眼…」どころではなく,「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(平成15年法律第72号)」に基づいて,牛に装着された耳標番号や性別を確認するもので,これまた楽しみどころではない。
 さて,和牛の呼称が,「役肉用牛」から「肉用牛」に改められたのは,耕転機の著しい普及に伴って和牛の役利用が衰退した昭和37年だったと記憶している。
 以来,和牛の産肉性の向上と改良を図るため,審査標準や登録制度の改正をはじめ,種雄牛の産肉能力検定(直接法,間接法)及び現場後代検定等々がおこなわれてきた。
 さらに,平成4年からは,枝肉成績と血統情報から個体の遺伝能力値の総和を推定する育種価による手法が取り入れられ,その結果,質・量とも着実に改良が進展し優れた肉用牛が生産されるようになってきた。これは関係者皆様方の長年のご努力の賜物だと思っております。
 現在,岡山県内で飼育されている和牛の繁殖用雌牛頭数は約5,000頭で,その血統は種雄牛の広域利用もあって複雑なものになっており,困難を伴うと思うが,その昔「つる牛」が造成されたように,遺伝的に強い優良形質を持った雌牛系の掘り起こしと,その集団化を図り,雌牛側からの改良も推進され岡山県がより一層の優良な和牛の産地として生き残ってゆくことを念願しています。

(社)岡山県配合飼料価格安定基金協会勤務