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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

家畜臨床研修所 谷 孝介

 肥育牛ではビタミンAのコントロールにより良質の肉を生産するため,血液中のビタミンA濃度の測定が重要となっています。
 当所でも2年前より検査を始め,検査依頼も年々増加傾向にあります。

…ビタミンAの作用は…

 ビタミンAの作用としては,網膜の光受容体の合成,消化器,泌尿器,呼吸器,生殖器の粘膜上皮細胞の機能を維持する作用が知られています。そのため不足すると体重の減少や夜盲症の発生。尿石症,肺炎等の疾病にかかり易くなります。

…肥育でのビタミンAと肉質…

 ビタミンAと肉質については更にこれからの研究成果が待たれる状況ですが,脂肪交雑には抑制的に働き,体を増体させる作用があると考えられています。
 肥育では,肥育中期の早い時期にルーメンでの発酵を良好に保ち酢酸を増加させて,ビタミンA給与を止め,血液中のビタミンA濃度を低下させます。このことにより,脂肪前細胞の増殖と分化が促進され脂肪交雑になり易いとされています。

…現在の状況…

 血液中のビタミンA濃度の測定結果からみると,導入時のビタミンA注射だけでは必要な血液濃度が確保されていない牛が大変多くみられ,肝臓へのビタミンAの蓄積が欠乏状態にあるようにみうけられました。
 また,肥育後期〜仕上げ期での血液中のビタミンA濃度が一般的に低下した状態にあり,一部の農場では筋肉水腫や夜盲症が発生していました。

…今後の対応…

 現在,乾草は価格の高騰により給与しにくい状況にありますが,導入時より1s〜2sの緑色の良質乾草を与えることは,この時期に必要とするビタミンAを確保できるとされていますので,緑色の良質乾草を給与しましょう。2ヵ月〜3ヵ月の給与期間で必要な血液中のビタミンA濃度が確保維持されます。

…血液中のビタミンA濃度の測定…

 導入時のビタミンAの注射(250万IU)と乾草給与を続け,導入後1ヶ月〜2ヵ月の頃に血液中のビタミンA濃度の測定を行います。

…血液中のビタミンA濃度の低下…

 その結果,血液中のビタミンA濃度が低下状態にあるものは,測定後早期(10ヵ月齢〜11ヵ月齢)にビタミンAを導入時と同じ量を注射し肝臓へのビタミンAの蓄積を高めます。
 特に,緑色の良質乾草を給与が給与できない時は,血液中のビタミンA濃度が低い牛が多くいる状況にあると思ってください。

…ビタミンA給与の中止は…

 血液中のビタミンA濃度は,正常な状況であれば投与の中止により1ヵ月〜2ヵ月では低下状態にはなりませんが,5ヵ月〜6ヵ月経過すると低下した状態となります。

…ビタミンA給与の中止以後は…

 ビタミンA給与が中止される肥育中期(14ヵ月齢〜20ヵ月齢)を過ぎた肥育後期には,血液中のビタミンA濃度が低い状態にあるものが多くみられます。

…再度の血液中のビタミンA濃度の測定…

 この20ヵ月齢で2度目の血液中のビタミンA濃度を測定し状況を確認します。
 20ヵ月齢以後の肥育後期では,血液中のビタミンA濃度が30単位(IU/q)を下回らないように維持することが求められます。
 このため,ビタミンA3千単位(IU)の飼料添加が勧められています。

…血液中のビタミンA濃度を正常に…

仕上げ期(25ヵ月齢)に入るとビタミンA100万単位(IU)の注射と5千単位(IU)の飼料添加により血液中のビタミンA濃度を上昇させ,更に27ヵ月齢〜28ヵ月齢に100万IUの注射を行うことが重要で,血液中のビタミンA濃度を正常に保ち増体重に努めます。