ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2006年8月号 > 〔技術のページ〕子牛市場体測値を利用した岡山和牛子牛の初期発育の遺伝的分析について |
従来岡山和牛は,その特色として「発育性の良さ」が全国的に評価されていました。しかし一時期,肉質重視の観点から,但馬系の利用が多く行われました。その結果,「牛が小さくなった」という声が多く聞かれるようになりました。
一方,近年の子牛価格の高騰により,肥育農家からは,収益性を確保するため,より「発育性」の高い子牛(素牛)に対するニーズが高くなっています。
本県が平成4年度から実施している産肉能力育種価は,種雄牛造成や優良雌牛保留などに広く利用され,成果も上がっています。しかし産肉能力育種価(特に枝肉重量)は,約8ヶ月齢時の発育性(初期発育)に直接関係していないため,繁殖農家が子牛をより有利に販売するための指標(子牛市場出荷時での発育性の良い子牛を生産する雌牛の選定など)には利用できない点があります。
そこで総合畜産センターでは,平成15年から和牛子牛の初期発育について,遺伝的な分析を行っておりますので,そのなかから現在得られている一部の知見を紹介します。
平成15年7月〜平成17年8月に岡山県子牛市場に上場された去勢子牛2,969頭,雌子牛2,237頭,計5,208頭を用いて,子牛市場出荷時の体高,体重,日齢の分析を行いました。
BLUP(ブラップ)法アニマルモデルという手法を用いて育種価等を推定しています。
〔式:表現型値=全体の平均+環境効果+育種価+誤差〕
環境効果には,母の年齢,農家(地域),性,出荷年(季節)を取り入れて分析を行っています。
1)基本統計量
表は,体測値及び出荷日齢の平均を表しています。
雌で体高109.2p,体重252.5s,去勢で112.2p,体重265.9sとなり,また出荷日齢は雌259.8日,去勢が244.2日と,雌の方が約15日遅く出荷されています。
また体高について全国平均(全国和牛登録協会・発育平均)から比較すると,図1のグラフのようになりました。雌については,109.2p(8.7ヶ月齢時点),去勢は112.2p(8.7ヶ月齢時点)でした。
データ数はまだ少ない状況ですが,現在の岡山和牛子牛は,雌・去勢ともに発育性についてほぼ全国平均値並にとどまっているということが示されました。
図1 岡山子牛と全国の子牛体高の比較
2)母牛の年齢による影響
図2に,母牛の出産年齢ごとの子牛の発育状況を示しました。
母の年齢の影響をみると,体高及び体重とも同様な傾向がみられ,2〜4歳時(初産〜2産時)並びに11歳以上で産子が小さくなる傾向がみられ,5〜9歳が高い値を示しました。
このことから,母牛が5〜9歳の時の産子が発育が良い傾向があり,雌後継牛を検討するのにもこの時期の産子が適していると言えます。またさらに言えば,母牛は10歳以上で更新を検討するべき,ということを示しています。
図2 母の年令効果
3)地域の効果
図3及び図4は地域ごとの体高及び体重の平均値の比較を示しました。
(10頭以上出荷農家114戸から集計。)
地域ごとでは,体高・体重とも真庭地域が平均的に発育の良い子牛を生産していることがわかりました。また農家間では,体高で7.4p,体重で49.6sもの大きなばらつきが見られ,子牛の初期発育には,農家及び地域ごとの子牛の哺乳・育成管理の技術が反映され,大きな影響を与えていることが示唆されました。
このように初期発育について得られた数多くのデータを分析することによって,改良及び選抜の指標として,また雌牛の後継牛作出や更新時期の判断材料としての利用が多いに期待されます。
さらに正確度を向上させるためにはまだまだデータ数が不足しているところもあります。
総合畜産センターでは,今後も引続きデータ収集・分析を行い,肉用牛農家の皆様に役立つ情報提供をしていきたいと考えます。