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〔畜産関係者の声〕

アメリカ牛肉輸入再開に思う

真庭家畜保健衛生所 所長 丸野 史郎

 7月27日アメリカ産牛肉の輸入再開が決定し,8月7日には第一便が成田に到着した。最初の輸入再開は昨年の12月,特定危険部位の除去や牛の年齢など輸入条件を付けていたのにもかかわらず,今年1月には早くも危険部位の混入が確認され,まさしく朝令暮改であった。
 今回の再開に至るまでに日本側による米施設の事前調査,米側の抜き打ち査察への日本側の同行,水際での検査強化などを条件に輸入再開に合意したわけであるが,BSE汚染の可能性がある牛肉を高い国費を使ってまで何故輸入しなければならないのか理解に苦しむ。まして食糧危機で飢餓に苦しんでいるのならある程度のリスクは覚悟するが,現在はアメリカ産牛肉がなくても困らない飽食の時代である。
 国内で初めてBSEが発生したのは平成13年9月千葉県である。その時はイギリスでの発症牛(狂牛)が毎日TVで放映され,国内の消費者・生産者は大きなパニックに陥ったが,不安を払拭するためその時点で在庫のあった国産牛肉は全て焼却処分された。しかしアメリカでの発生に対する日本の対応はどうだっただろう?政府は即時輸入の停止を決めたが,在庫分は焼却処分を行うどころか,全て消費に回され,在庫切れとなる直前の牛丼を食らい,非常に残念がる消費者のTV映像が今でも記憶に残っている。今回の輸入再開においても,脊柱の混入が発覚する前の輸入牛肉約1,000トン(アメリカは引き取り拒否)の在庫は国内保税倉庫に置かれており3ヵ月ほどの事態の推移を見極めた上で,輸入手続きを認めるとのことである。
 国内でのBSE対応は初発約1ヵ月後,食肉処理されるすべての牛について,BSEスクリーニング検査が開始されるとともに,飼料安全法も改正され肉骨粉等を含む全ての家畜飼料の製造・販売・家畜への給与が禁止された。またその後,牛海綿状脳症対策特別措置法により個体を識別するための耳標の装着や死亡した牛の届け出及び検査が開始されるなど短期間のうちに消費者への安全・安心対策が打ち出された。この甲斐もあって現在,国産牛肉の信頼が得られ価格も安定していることは大変喜ばしいことである。
 全頭検査や死亡牛検査は消費者に安心をしてもらうと同時に,感染源と感染ルートを解明する目的もある。それなのに解禁を迫りに来日したライス国務長官は「日本の全頭検査は輸入再開の大きな障壁である。日本は全く科学的根拠のない全頭検査をしてアメリカ産牛肉を市場から排除している」と言ったが,全頭検査は科学的根拠を見つけるためではないのか?また,ジョハンズ農務長官やペン農務次官は「BSEは自動車事故より低リスク」との発言もあり,騒ぎすぎる日本がおかしいとでも言わんとばかりであった。
 しかしアメリカにおいて,BSEやクロイツフェルト・ヤコブ病の原因とされる異常プリオン蛋白質の存在を発見したプルジナー米カリフォルニア大教授は1997年のノーベル医学生理学賞を受賞し,日本の全頭検査を支持しているし,昨年血液中からの異常プリオンの検出も可能にする新技術を米テキサス大のチームが開発したとの報道もある。やろうと思えばBSE感染牛についても解体前に感染の有無を血液で判定できる可能性もあり,何故検査を実施しないのか不可解な点が多い。
 アメリカ国内でのBSE発生に対し,何故マスコミ・国民は大騒ぎしないのだろうか?国民は米国の牛肉は世界一安全との神話を信じているからだろうか?それとも交通事故ぐらいのリスクなら安心の範疇に入るのか?
 日本においては発生当時,国が消費者と十分リスクコミュニケーションをしないまま全頭検査に踏み切った経緯がある。このことはOIEの国際基準よりも世界一厳しい条件で検査を実施していることになるが,その結果,現在までに国内で28頭,それも21ヵ月齢のBSE感染牛も見つかった。このことは30ヵ月齢以上を対象とする国際基準で検査を行っていたらBSE患畜を見過ごす結果となっており,全頭検査の必要性をOIEに示す根拠になった。
 しかし昨年5月厚生労働省は20ヵ月齢以下の発生リスクを残したまま,アメリカ産牛肉の解禁をにらみ,二重基準とならないよう全頭検査を緩和し20ヵ月齢以下の若い牛を検査対象から外すことを決めた。当然自治体は混乱したが,このような一貫性を欠く国は,苦肉の策として自主的検査を実施する自治体に対し全頭検査にかかる費用を3年間全額助成することとした。
 そもそも食品安全委員会は国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下,食品を摂取することによる健康への悪影響について,科学的知見に基づき客観的かつ中立公正に評価を行う機関として設立されたものであり,この委員会の傘下のプリオン専門調査会抜きでは現在の国産牛肉の安全・安心は語れないだろう。しかしアメリカ産牛肉問題から雲行きが怪しくなり,今年4月プリオン調査会は空中分解し委員半数が辞任した。この無責任な委員の辞任は私には関係ないが,この猛暑の中,腐敗臭で反吐が出そうになるのを我慢して,死亡牛検査をまじめにやっている家畜保健衛生所職員を裏切らないで欲しい。
 今回の輸入再開も,マスコミは当然ながら大きく報道した。この報道に対して大半の消費者はアメリカ産牛肉に拒否反応を示すのではないかと期待したが,その様子を見ていて,また牛丼屋にお客が列び,美味しそうに食する姿が脳裏をよぎった。私の子供の頃は大きなアメ車がステータスシンボルとなり,憧れを抱くと同時に,大人になったら一度は乗ってみたいと思っていたが,今はどうだろう?
 今,畜産関係者としてしなければならないことは,賢い消費者を育てることであり,このことが今後の畜産振興・食糧自給率の向上につながっていくものと考える。