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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

勝英家畜診療所 山名 一廣

 通称「キンヌキ」,つまり「去勢」について再認識と懺悔を込めて述べてみます。
 誰が,何処で,何の為に,どうやって始めたのかは定かではありませんが,わが国においては雄牛を去勢して肥育するのが一般的です。利点は@性質が温順となり,飼養管理が容易となる。A肉質,毛質が良好となり,脂肪沈着が促進され,増体に資する点が大きい。B乱交尾なく,雌群との混牧が可能となる。などが挙げられます。通常,肥育素牛にする雄子牛は肉質の向上と群管理の容易性から生後3〜4ヶ月のうちに去勢を実施しますが,安全,確実が最優先の厳守事項となります。
 去勢方法は無血法と観血法があり,無血法は@挫滅法:バルザック去勢器を使用し,陰嚢上部の皮膚上から精索を挫滅する方法で,陰嚢の壊死を防ぐため,左右精索を挫滅部が中央で一致しないように別々に挫滅する。鉗圧の際,精索が逸脱しないように留意し,術後,精索が離断したか否かを触診すれば,更に確実です。但し,古い去勢器は磨耗,弛緩の点から絶対に使用しないことです。
 A緊縛法:極めて強い弾力を有するゴムリングをイージーカットで,陰嚢上部の精索皮膚上に装着し,緊縛された陰嚢が睾丸を内蔵したまま壊死脱落するのを利用したものです。ゴムリング装着時は両側睾丸を確実に陰嚢内に保持し,緊縛部位の上方へ睾丸が滑脱しないように注意することです。本法は除角,断尾にも利用されています。
 無血去勢法は比較的短時間で,処置も容易なため一般的に実施されているのが現状ですが,挫滅法は完全確実性に欠ける点や施術後,陰嚢の腫脹が消退するまでの期間が長く,慢性的に牛に苦痛を与え,歩行困難や,それらに伴うストレス,飼料摂取の低下から増体への影響が危惧されます。一方観血法はストレスの軽減や不完全な去勢による売買上のトラブル皆無という利点があり,現在は引抜法という手法が実施されています。枠場内起立保定で,陰嚢下端の皮膚を摘んで下方に引き,カッターナイフ等で切断し,精巣被膜(固有鞘膜)剥離後,精巣の血管を結紮せずに睾丸を引抜く去勢法です。陰嚢下部が切断されているため,血液や分泌液等を陰嚢内に貯留することなく外傷としての治癒を待つだけで,ストレスが少なく,簡易完全な去勢法と言えます。但し,3ヶ月齢以下は避けるべきで,早期去勢は発育低下の一要因になり,尿道の発育を阻害し,肥育に入ってから尿石症になりやすい牛がみられます。育成初期は雄性を利用して発育水準を高め,ルーメンや筋肉成長を促す方が有利なことから従来の去勢時期を若干遅らせて,4〜5ヶ月齢で実施した方が良いという報告もあります。実際には,去勢時期が遅いほど増体量が有意に多いが,肉質に殆んど差がないことから,去勢作業の危険性を考えれば,離乳時期と一致しないように,5ヶ月齢去勢までが無難です。去勢の効果として毛質が柔らかくなり,体型が丸味を帯びるには,施術後,約3ヶ月間が必要なため,家畜市場出荷予定日も考慮しなければなりません。尚,この時期,粗飼料と濃厚飼料の給与バランスに細心の注意を配り,良質乾草を自由採食にし,新鮮水を飲ませ,当然ですが,新観血去勢法実施後は陰嚢下部が開放創となっているため,感染防止は言うまでもなく,牛舎内の換気,牛床の清潔,乾燥に努め,衛生管理に留意する必要があります。以上,新観血去勢法を推奨し,JAの和牛担当者と今月もまた,生産検査の日程を決め,安全確実な去勢を実施したいと思います。