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〔技術のページ〕

凍結卵の受胎率向上に向けて
─ウシ栄養膜小胞の作出と保存技術について─

岡山県総合畜産センター 大家畜部受精卵供給科 
技師 藤原 裕士

 近年,授精後14〜16日目の受精卵の栄養膜から妊娠維持物質が放出されていることが確認されて以来,この物質の利用が受胎率向上の鍵になるのではないかと注目を集めています。一般に凍結胚では凍結時のダメージにより妊娠維持物質の放出が弱くなっており,また経産牛では搾乳の代謝ストレスにさらされているため妊娠維持物質に対する感受性が弱まっていると考えられています。胚移植時に妊娠維持物質を補うことで受胎率の向上が期待できるのではと様々な取り組みが行われています。当センターでも授精後14〜16日目の受精卵の栄養膜から栄養膜小胞の作出や保存方法を検討しており,最終的に受精卵と共に移植することで受胎率を向上させる取り組みを行っているので紹介します。

1.妊娠維持の仕組み

 受精卵は子宮内で成長し,授精後14〜16日目の受精卵は伸張期胚盤胞といわれるものになります。長さは約4〜6pにもなります。この伸張期胚盤胞の栄養膜細胞が産生する妊娠維持物質がインターフェロンτと呼ばれており,受精卵と母体の妊娠認識や黄体退行阻止による妊娠維持に関与しているとされています。(図1)

2.センターでの取り組み

1)伸張期胚盤胞の回収
 インターフェロンτを直接抽出することは難しいので採卵により得られた受精卵の栄養膜自体を利用します。授精後14〜16日目の伸張期胚盤胞(図2)を採卵で回収して栄養膜を利用します。


図2 回収された複数の伸張期胚盤胞

 当センターでは過剰排卵処理後の牛に人工授精を行い,授精後14日目に採卵を行いました(表1)。

表1 伸張期胚盤胞の回収成績

2)栄養膜小胞の作出
 伸張期胚盤胞から内細胞塊(将来胎仔となる部分)を除いて0.5〜1.5oぐらいに細かくメスで切断して数日間培養し,膨らんできたものを栄養膜小胞(図3)として利用します。この栄養膜小胞からもインターフェロンτが産生されています。


図3 培養後の栄養膜小胞

3)栄養膜小胞の凍結
 作出された栄養膜小胞を常時使用するためには,受精卵と同様に凍結の技術を確立する必要があります。従って栄養膜小胞にとってどのような凍結方法がよいのかを検討しました。凍結卵の移植では農家の庭先で簡単に融解できる方法が好まれることからダイレクト移植を目的とした緩慢凍結を試みました。凍結溶液は当センターで受精卵を凍結するときに使われる1.5Mエチレングリコール+0.1Mトレハロース+20%FCS加PBSを用い,定法によりプログラムフリーザーで凍結した後液体窒素に投入しました。融解は35℃の温湯に浸漬して行い,培養して生存の判定をしました。その結果が表2です。

表2 栄養膜小胞の凍結融解成績

 凍結融解後生存率は71.7%と高く,この結果から栄養膜小胞の緩慢凍結法による保存は比較的容易にでき,受精卵と同時に栄養膜小胞を緩慢凍結し,庭先での融解による直接移植が可能であることがわかりました。また既存の技術で対応することも可能であると考えられました。
 ただ,今回の成績は栄養膜小胞の培養系を検討することによりさらに向上する可能性があります。

3.今後の展開

 他県では凍結した受精卵と栄養膜小胞を受卵牛に移植した結果,受胎率が10〜20%程度上昇したという報告があります。しかし栄養膜小胞を単独で子宮内に注入しても効果はなく,受精卵と共に移植して初めて効果が発揮されるという報告もあります。
 今後は栄養膜小胞と受精卵の共移植試験を行い,受胎率について確認作業を行う予定です。また凍結卵だけではなく低品質卵への応用も考えています。
栽培キットの試作