ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2006年11・12月号 > 〔普及の現場から〕「牛尿(簡易曝気)を活用した飼料稲WCSの省力・低コスト生産の取り組み」

〔普及の現場から〕

「牛尿(簡易曝気)を活用した飼料稲WCSの省力・低コスト生産の取り組み」

津山農業普及指導センター

1 はじめに

 従来から,酪農家は貯留牛尿を液肥として自ら牧草や飼料作物に還元利用してきましたが,津山市近郊でも混住化が進み,尿散布時の臭気抑制のため簡易曝気処理施設を設置する牧場が増えています。(昨年の畜産便り11・12月号で紹介)
 今年,津山市酪農組合では(津山液肥生産組合と連携し)処理牛尿をホールクロップサイレージ用の飼料稲栽培に活用することで省力・低コスト生産・利用体系の確立につながればと実証ほを設け,津山農業普及指導センターや総合畜産センター・津山市農業技術者会議等の協力のもと試験栽培を行いましたので,その取り組みについて紹介します。

2 実証の概要


タンク設置状況

(1)実証場所

 津山市綾部地区(水田37a(29aと8aの2筆))

(2)耕種概要

 供試品種:日本晴
  機械移植栽培:6月19〜20日に田植え
(30p×21p)
 前作は稲WCS(日本晴)で,元肥は入れず追肥のみで栽培しました。

(3)実証区分

 実証ほは,標準施用区(1t/10a/1回量)と多投入区(1.5倍量)を設けました。
 また,参考として慣行栽培(化成肥料)との比較も行いました。


施用の様子

(4)施用法等

 追肥は,田植え後10日目から,葉色を見ながら3回の施用(6/30,7/26,8/16)を行いました。
 方法は,曝気牛尿を牧場(処理施設)からバキュームカーで運び,水田の畦に置いた農業用タンク(500と1000リットルのタンク,各1基)に一旦移します。
 その後,事前に落水しておいたほ場に,1回量を標準区で1t/10a(多投入区は1.5t/10a)を目安として水口から用水と一緒に流し込み,水深5〜10pなるよう押水で調整しました。

(5)調査項目

 総合畜産センター等関係機関の協力を得て,液肥成分,臭気,拡散状況,土壌の状態,生育,収量,作業時間,コスト等の調査を行っています。

簡易曝気処理牛尿の成分等(単位はppm、分析:岡山県総合畜産センター)

施肥実績(10aあたり)

3 実証結果と考察

(1)臭気・拡散状況等

 ほ場施用時の臭気はほとんど感じられず,周辺への影響はあまり無いものと思われました。検知管で調べてもアンモニアは1ppm以下(0.2ppm程度)でした。

牛尿施用直後(2時間後)のほ場用水の分析値(単位はppm)

 施用した牛尿は黒褐色で比重もやや重いため,広がり具合の観察が容易でした。
 29aのほ場では,中央部は充分行き渡りましたが,押水をした水口と奥角の部分が薄くなり,8aの細長いほ場は水口・奥角とも均一な拡散状態となっていました。

 但し,ほ場に高低差があると牛尿は低い所に集まり,生育ムラができたり倒伏の原因になるため,代かきを丁寧に行い均平な水田にすることと,水利条件の良い(豊富な水量が確保出来る)ほ場で取り組むことがポイントと推察されました。

(2)生育状況

 生育は良好で出穂期は8月23日,初期除草のみ実施し以後防除(薬剤散布)等は行いませんでした。ヒエが散見されましたが,倒伏はなく病害虫の発生もほとんど見受けられませんでした。

生育等の状況(調査日:9月13日)

(3)収量等

 ほ場条件や化成肥料施用量等にもよりますが,慣行栽培に比較しても遜色なく期待以上の収穫量が得られました。また,サイレージとしての品質も調査する予定ですが,既存の試験研究データ等から硝酸態窒素濃度は心配ないものと思われます。


生育(収穫前)の様子

(4)省力管理と生産コスト

 1t/10aの牛尿投入に30分,その後の押水調整に20〜30分かかりましたが,追肥の手間と経費(NK化成等の肥料購入費用)の削減が可能となりました。

4 終わりに〜今後の課題

(1)牛尿供給側(畜産サイド)では処理施設整備と液肥の品質・量の安定的確保が課題で,津山市酪農組合として今後も継続して取り組んで行く予定です。
 6月〜8月にかけて飼料作物に施用出来ない時の還元処理先を確保する意味からも,耕畜連携による牛尿の水田施用技術体系の確立・普及は重要と思われます。

(2)実際に牛尿の運搬は誰がどうやって行うか,それに係る費用負担等,については,「畜産農家が各処理施設から曝気牛尿をバキュームカー(またはトラックへ積んだ農業用タンクにポンプ等)で汲み上げて運び,ほ場の設置タンクへ(荷台のタンクの場合は落差等を利用して)移し,施用は耕種農家が実施する」方法を想定していますが,耕畜両者の作業分担や経費負担等は話し合い調整する必要があります。

(3)今後は畜産側だけでなく,耕種側との連携・役割分担をますます深めての取り組みが重要で,関係機関・団体との連携支援に普及センターとしても努めて行きたいと思います。