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〔技術のページ〕

アミノ酸を利用した豚の栄養管理

岡山県総合畜産センター環境家畜部
中小家畜科 科長 森 尚之

 蛋白質(protein)は,ギリシャ語の proteios(最も大切な)に由来しているとおり,昔から大切な栄養素と考えられてきました。
 しかしながら,同じ蛋白含量の飼料を家畜に与えても生産性に大きな違いが生じる場合があります。これは,蛋白質の構成成分であるアミノ酸組成に違いがあるからです。特に豚や鶏といった単胃動物では,給与蛋白質中のアミノ酸組成が大きく影響してきます。
 今回は,このアミノ酸に着目した豚の栄養管理について述べてみたいと思います。

1.低リジン飼料による霜降り豚肉の生産

 銘柄豚肉生産や良食味豚肉生産の観点から,筋肉中の脂肪含量が高い「霜降り豚肉」の関心が高まっています。
 最近の研究によると,飼料中のある成分を制限すると「霜降り豚肉」が生産できることがわかってきました。
 この成分が,必須アミノ酸である「リジン」です。
 低リジン状態になると脂肪酸合成が活性化されるため,リジンを制限すると脂肪が蓄積され「霜降り豚肉」となるわけです。
 肥育後期の雌豚に,リジンの含量が要求量の70%程度の低リジン飼料を給与すると,通常のリジン含量を給与した場合と比較して,胸最長筋の脂肪含量が2倍程度に増加しました。
 今後,去勢豚を同様の飼養方法で飼育した場合の過度の脂肪蓄積,リジン以外の必須アミノ酸の効果,飼養期間,窒素排泄量などについての検討が待たれます。

2.高リジン飼料による赤肉生産の向上

 地産地消が推奨される中,岡山県では「おかやま黒豚」の銘柄化を推進しています。
 「おかやま黒豚」の枝肉調査の結果から
 @ 去勢豚の厚脂による格落ちが多い。
 A ロース断面積の著しく小さい個体が散見される。
 ということが,問題点として浮かび上がってきました。
 そこで,「おかやま黒豚」の赤肉生産量の向上を目的として,1で説明した低リジンとは反対の考えで,高リジン飼料の効果を検討しました。
 前回の畜産便りでは(平成17年10月号),去勢豚についてリジン/ME比を高くすることにより,背脂肪厚が薄くなるとともにロース断面積が大きくなること,雌豚の場合は,リジン/ME比を高くしすぎると,逆に負の効果が出ることを紹介しました。
 この成績をもとに,リジンの添加時期及びリジン/ME比を更に検討した結果,
 本飼養標準に比較してリジン/ME比を高めた場合,去勢豚は高値に設定しても正の効果を示すこと,一方,雌豚はリジンの利用については上限があるものの正の効果を示すリジン/ME比があることが確認されました。
 この結果をもとに,雌雄いずれの性別にも利用できる飼料を考えて,その設定を日本飼養標準のリジン/ME比に対して
    日  数    割 合
  43− 62日 : 115%
  63−122日 : 140%
  123日以降  : 150%
 とすることで,「おかやま黒豚」の厚脂の改善並びに赤肉生産量の向上が期待できます。

3.アミノ酸を利用した地球環境保全

 いままで,アミノ酸であるリジンを制限又は増強することによる,豚肉中の脂肪含量や赤肉割合を制御する技術について述べてきました。その他,最近ではアミノ酸を利用したふん尿中の窒素低減が検討されています。
 これは,通常豚に給与する飼料中には,リジン,含硫アミノ酸(メチオニン,シスチン),スレオニン,トリプトファンなどの含まれる割合が少なく,そのためこれらを充足させるために,蛋白質を過剰に配合する必要があります。
 その結果,リジンなどは充足しますが,他のアミノ酸は過剰な状態になり,豚に利用されることなく窒素化合物として排出されます。窒素化合物は,微生物の働きによってアンモニアに分解されますが,アンモニアは悪臭の原因となるだけでなく,さらに亜硝酸や硝酸に変化し,土壌の酸性化,地下水や河川等の汚染につながります。
 そこで,精密なアミノ酸給与が必要になってきます。飼料中の不足しがちなアミノ酸を添加剤(結晶アミノ酸)で給与することにより,飼料中のアミノ酸バランスが適正化され,蛋白質含量を減少することができます。このことは,過剰なアミノ酸を減少することにつながり,その結果として環境への窒素排泄を減少させる一つの手法となるのです。

4.終わりに

 豚のアミノ酸要求量を正確に求め,不足するアミノ酸を添加して飼料中のアミノ酸バランスを改善することにより,蛋白質の利用効率を上げることが可能になるとともに窒素排泄物を低減化することが可能になってきました。
 この技術は,世界の食料をいかに効率よく利用すること,同時に地球環境を悪化させないことにつながる技術であり,豚に限らず,鶏,牛においても,今後ますます研究が進んでいく分野であると考えています。