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〔畜産農家の声〕

『時代にマッチした肥育技術の探求』

有限会社 石岡牧場 石岡 史好

 私の実家は,以前は酪農を営む農家でした。そのため,幼い頃より牛に囲まれる生活をしており,農業系の大学へ進み畜産を専攻することはごく自然なことでした。とはいっても,両親から家業を継ぐように言われたことはなく,自分でも将来について深く考えたことはありませんでした。学生生活を送る中で,後継者となるために学ぶ友人と出会い,将来を語りあううち,何時しか自分も父と同じ道を歩みたいと思うようになりました。

 当時は乳肉複合の経営で,祖父の代より牛の仲介業をしていたこともあって,牛の売買に興味を持つようになりました。在学中に家畜商の免許を取得し,卒業後は修行のため県内の畜産会社に就職しました。そこでは,牛の売買やF1牛の飼育方法について多くの経験をさせていただきました。
 就職して数年過ぎた頃,台風で実家の牧場が壊滅的な被害を受け,これを期に酪農から撤退し,一貫肥育経営に切り替えることとなり,私も会社を退職して両親とともに一から牧場を立ち上げる決意をしました。
 労力を抑え作業の効率を上げるため,牛舎を新築し,自動給餌機や自動哺乳機を導入しました。これらのことが認められ,平成14年には,農林漁業近代化表彰で農林水産大臣賞を受賞しました。また,最初から多頭飼育を考えていたので,常に安定した肉牛を作るために哺育・育成・肥育の3つのマニュアルを作成し,この3つのマニュアルは,基本的なことは変わりませんが,外部から仕入れた情報や枝肉,病気に対応させながら常に見直しをしております。
 平成13年のBSE発生直前は,F1の枝肉相場は高値で安定しており,上物等級は和牛に近い相場で取引されることもしばしばありました。そのため,当時私のマニュアルも上物等級狙いのもので,生後27ヶ月肥育で平均体重780s。ビタミンレベルを最低に設定するため尿石症などに罹ることも多く,朝,牛舎に行くと牛がひっくり返って死んでいるのでは?とかなりヒヤヒヤしたリスクの高い飼育管理を行っていましたが,それだけの見返りはあったと思います。
 BSE発生以降,トレサビリィティ制度の導入などで和牛とF1は差別化され,F1と和牛が区別される時代になりました。そこで,私はリスクを低く抑え,枝肉重量を増やすマニュアルに修正することにし,マニュアルも一部変更し,育成期間中の病気発生率を抑えたことで,育成期間中のDGは去勢の平均で1.22sまで上昇させることができ,肥育期間全期でも1.0sを超えるようになりました。
 その後,牛肉の輸入量の減少により,国内産牛肉の需要は急激に高まり,価格も高く推移してきました。供給が間に合わないため,全国的に早期の出荷が行われるようになり,従来よりも早く出荷することができ,なおかつ出荷体重も稼げるマニュアルに変更いたしました。今では生後25ヶ月出荷で平均体重800s以上になっております。

 今後,輸入牛肉の増加に伴い,枝肉相場の低下が考えられると思い,その対応策として,枝肉重量の更なるアップと品質の向上並びに地域に根ざした畜産経営を目指しております。その中の一つの対策として,毎月第4週の土・日曜日に地域の方々を中心に牧場産の牛肉を販売しており,最近では早朝より並んでくださる方もおられ,地域の畜産振興に多少なりとも貢献できているかなと思っております。出荷牛の目標は,平均枝肉重量500s以上を目指しております。
 このように,その時々にマッチした飼育方法やマニュアルを変化させてきました。肥育事業は結果が出るまで長い期間が必要ですが,今のところ,思ったより早く良い結果が出ており,これからも,常に時代にマッチした方法を考えることを探求していこうと思っております。これまで私にご指導くださった多くの方に感謝し,より一層,質の高い牧場経営を目指して頑張りたいと思います。