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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

真庭家畜診療所 池山 亨

ルーメンと飼養

 反芻獣である牛は他の動物にはない栄養上の特徴を持っています。それは,特大の一胃(ルーメン)のなかで,非常に多数の微生物により摂取した飼料が分解され,揮発性脂肪酸(VFA)が生成・利用されるとともに,増殖した微生物の細胞がタンパク質源として利用されることです。これらの発酵産物により,生体の維持や増体と乳や肉などの生産物に必要な栄養をまかなっています。
 ルーメン内には飼料や水やそれらに付着する微生物や唾液が絶えず流入し,また,多種多様で膨大な数の微生物とともにルーメン内を一定のバランスに保っているのです。
 泌乳や肥育など,家畜としての牛には質・量ともに高い生産レベルが求められます。ルーメンの発酵産物だけではその栄養要求量を満たすことができません。飼料の高エネルギー化や添加物の利用,また飼料給与の方法を改善するなどして摂取栄養の吸収や利用を高める必要があります。
 ルーメン内のバランスを保ちながら高い生産レベルを目指すことは非常に難しい問題です。飼料の急変や生産ステージに合わない飼料給与は徐々にルーメン内のバランスを崩し,さまざまな消化器疾患や代謝疾患となって表れます。

ストレスと環境

 意外に思われるかもしれませんが,他の動物と同じく牛も外部からのストレスに対して非常に敏感です。外部からのストレスといえば,繋留,暑熱,寒冷,不衛生,痛みなど挙げればきりがないですが。
 ストレスを感じると脳の下垂体で副腎皮質刺激ホルモンが放出され,それにより副腎皮質からコルチゾールなどステロイドホルモンが放出されます。ステロイドホルモンは免疫力を低下させ,牛体は感染しやすい状態となってしまいます。
 ストレス下では非常にエネルギーを消費します。また病原微生物が感染すれば,発熱や免疫抗体の産生などさらにエネルギーを消費する状態となります。それに対して胃や腸など消化器の動きは鈍くなり食欲は落ちる一方です。
 摂取エネルギーが低下するのに対して消費エネルギーが大きくなれば,足りないエネルギーはどこから持ってくるのでしょうか。それは体脂肪を動員してエネルギーに変えます。脂肪がなければ筋などのタンパクを分解してでもエネルギーをつくることとなります。それにより起立が維持できなくなったとしても,生命を維持するためにはなりふりかまっていられないのです。

以上を踏まえて…

 臨床獣医師として岡山県真庭市で働き始めてもうすぐ1年が経とうとしています。これまでに多くの乳牛や和牛の疾患を診てきました。これまでの診療のなかで,給与飼料のことでアドバイスを求められることもあり,治療を行うだけが獣医師ではないということを痛感したこともありました。
 どうしても治療は対症的なもので後手に回ってしまうことが多いです。病状や原因を把握するための情報として,一般症状のほかに,飼料給与はどうだったか,どのような飼育環境なのかといった情報を牛の内外に求めます。至らないこともあり,ベテランの先生方にアドバイスを頂くこともしばしばですが…。そして毎回自分の診断・治療方法を疑うようにしています。もっと正確な原因を探れなかったか,より的確な治療がほかにあるのではないか,と考えます。
 日々の診療を通して,診療技術だけでなく給与飼料や飼養環境においても専門的な知識を蓄え,獣医師として自分を磨く毎日です。いずれ,知識と経験とセンスがバランスよく同居する予定です。