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〔家保のページ〕

「拡げよう!受精卵移植の“輪”」

津山家畜保健衛生所

1.はじめに

 津山家畜保健衛生所の管内は畜産の盛んな地域で,その中でも肉用牛はもともと「藤良系」と言われる和牛のルーツの場所でもあり,飼養頭数も県下の40%を占め,優秀な遺伝資源を豊富に持っている地域であります。さらに乳用牛についても,県下の27%が飼育されており,遺伝資源を生かす受け皿が多い地域でもあります。
 このような地域の特性と受精卵移植技術が結びつき,肉用牛農家と酪農家がお互いに連携し,和牛を増頭して行こうという取り組みが行われるようになり,平成17年度の和牛受精卵の移植頭数は690頭(県下の50.8%)に達しました。
 そそこで,管内における受精卵移植の取り組みについて紹介します。

2.取組状況等

(1)受精卵を活用した和牛生産に取り組む3つタイプ

 現在管内の受精卵移植の取り組みは大きく3つに分けられます。その中で最も多いのはタイプ1:肉用牛農家と酪農家が連携することにより,和牛を生産する仕組みです。

 この取り組みは,酪農家にとっては,乳雄やF1より相当の高値で取引される和牛を得ることにより多くの副収入が得られ,和牛農家にとっては,自分の農場以外で子牛を生産し,より多くの子牛を市場へ出荷することができるなど,肉用牛,酪農家側それぞれにとってメリットがあり,また,希少な精液で受精卵をつくることで,一本のストローからたくさんの優秀な子牛をつくることもでき,繁殖牛群の効率的な改良も進めることができます。
 このように,一石二鳥,三鳥の取り組みとして,管内で受精卵移植が盛んに行われるようになり,平成18年度は,和牛農家24戸,酪農家41戸が受精卵移植に取り組んでいます。また,ここ数年,酪農家自らが和牛を持ち,採卵・移植・育成・市場出荷まで一貫して行う酪肉複合経営への取り組みが行われるようになり(タイプ2),経営の改善,さらに和牛頭数の増加に一役買っています。平成18年度は8戸の酪農家が取り組んでいます。
 次に,受精卵移植を用いて,酪農から肉用牛農家へ転換を図る取り組みです(タイプ3)。主に高齢化と後継者不足により将来的に搾乳を止めることを前提に,時間はかかるものの初期投資が少ない受精卵移植によって,徐々に和牛を保留していくというものです。平成18年度は5戸が取り組んでいます。

3.課 題

(1)受胎率:

 現在の管内の移植頭数で1%受胎率が上がると産子が7頭弱も余分に生まれ,決して侮れない数字です。この受胎率を左右するのは,「移植技術のレベル」,「受精卵の活力」,「借腹牛の状態」の3つがあります。この中で「借腹牛の状態」の改善は,原因が複雑なため後回しにされてきたところがあります。「乳がよく出ている牛は付きが悪い」などとよく言いますが,一方で9千s,1万s以上搾ってもよく受胎する農家があることも事実です。今までは「いかに移植技術を高めるか」「いかに状態の良い牛を選ぶか」といったことに力を入れてきましたが,一歩進んで,「いかに借腹牛の状態を良くしていくか」ということに取り組む時機に来ているのではないかと思います。

(2)移植師の絶対数が足りない!

 受精卵移植は何度も農家に足を運ぶため,移植数が増えれば増えるほど,回数がうなぎ登りに増えてきます。現在,移植師同士,また獣医師と協力することによって,効率的に農家に足を運ぶことができないか検討していますが,今以上の移植の要望に応えるには,根本的な移植師の増員が急務であります。

4.終わりに

 農家に行くと,「こうしたらどうだろう。ああしたらうまく行くか?」と議論に熱が入り,2時間,3時間があっと言う間に過ぎてすぎてしまうことがよくあります。移植への関心が高まっているのは確かです。受精卵移植を通じて,こうした取り組みがさらに盛んになり,和牛の増頭・レベルアップ,そして市場活性化,さらにはおかやま和牛のブランド化が一層高まっていくことを期待しています。(黒岩力也)