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〔シリーズ〕堆肥を利用した耕種農家を訪ねて

勝田郡奈義町 長尾隆大さん
堆肥の投入が機械作業性を向上させる(前編)

社団法人岡山県畜産協会 経営指導部 大村 昌治郎


写真1 長尾隆大さん

 シリーズ「堆肥を利用している耕種農家を訪ねて」は前回からずいぶんと間が空いてしましましたが,かくれファンの皆さん! お待たせしました。
 ところで,突然ですが下の3つの数字は何を意味する数字か分かるでしょうか?

95% 14% 5%

 これは,平成17年の日本における3つの作物の食糧自給率の数字なのです。その理由は,今回紹介する勝田郡奈義町の長尾隆大さんは水稲,小麦,大豆を栽培されているからで,それらの食料自給率を並べてみました。どのような感想を持たれたましたか?
 水稲はミニマムアクセスや消費量の減少などがあり,自給率が100%になっていませんが,それでも非常に高い自給率になっています。ところが小麦と大豆はどうでしょう。さぬきうどんブームになったり,天然酵母のパンも静かな人気を呼んでいますが,小麦の自給率は14%なのです。この小麦の自給率はゆるやかに増加傾向にあります。また,健康食品として海外でも注目されている豆腐や,日本の調味料に欠かせない醤油,味噌,それに納豆までも大豆で作られています。それなのに自給率たったの5%なのです。日本食ブームと持てはやされていますが,その基本をなすものは輸入された大豆からつくられているのです。穀物価格は輸入品に影響されて生産物価格が低く,希望する収入や所得が得られない,といった理由もあるでしょう。しかし,小麦,大豆は日本の食生活に欠かせない品目であるのに,食糧自給率は低いと言わざるをえません。
 実は,長尾さんが水稲だけでなく,どうして小麦と大豆を栽培するようになったのかということは,食料自給率にキーワードが隠されているのです。長尾さんは「米は余った余った言われているが,麦と大豆は自給率が低いので,作ったら売れるだろうという思った。」と語られます。食料自給率そのものは低いが,消費者の安全志向が高まっているので,国産のものは商品価値が十分あると長尾さんは計算されたわけです。
 さらに,麦を栽培する利点は,水稲で利用する栽培機械類がそのまま利用できることです。そうすることで,機械の利用率が向上します。水稲の単作で大型化しても,導入した機械の利用時期は短く,限られた期間だけです。しかし,他の品目を入れることで,所有している機械が麦でも利用可能であれば,機械の利用率が向上します。できる限り遊ばしておく期間を短くすることは経営的にも重要です。
 このような,ものの見方や発想ができる長尾さんは,農業をはじめてまだ10年そこそこだそうです。それまではサラリーマンで,自動車屋,プレス屋などに勤めて,50歳のときサラリーマンを辞めて農業をはじめられました。「『農業は儲からないからだめ』とよくと言われているが,そこにチャンスがあると思って」農業をはじめたそうです。
 機械を効率よく利用し,広い面積で栽培されていますが,その基本は土づくりです。そのため,堆肥を十分に施用されています。有機質を入れずに化学肥料だけで25〜30年経つと,どんどん土がやせていくと言われます。「昔は,どこの農家にも和牛がいて,堆肥を田圃に入れていたが,現在は,堆肥を入れている農家が少なくなっている。」と長尾さんは言われます

1.栽培作目と面積


写真2 小麦の収穫

 長尾さんは,水稲,飼料イネ,小麦,大豆,ソバを作付けされています。長尾さんが栽培する上で基本となる考え方は,まずは安全な作物を食べて欲しいという気持ちです。堆肥の施用もその考え方がもとになっています。堆肥の施用で化成肥料を減らして栽培できるそうです。
 水稲の作付けは14ha(そのうち3haは請負作業)ありますが,ほとんどは借地です。借地は長尾さんから借りたいと言われたことはなく,貸し手のほうから借りて欲しいと言われるそうです。その理由に,兼業農家で休日を使って農作業をしていた人が,昨今の雇用状況において突然転勤を命ぜられたり,水稲をつくることができなくなったり,さらには,健康上の理由でできなくなったということがあげられるそうです。
 水稲はすべて自主流通米で,直接,岡山市や大阪,名古屋の小売店に販売しています。その販売先の一部は食味鑑定士協会で知り合ったところです。有機米ではありませんが,堆肥を使って栽培したお米ということで販売されています。また,水稲の栽培面積が多いので,自分のところにミニライスセンターを所有しています。


写真3 飼料イネの栽培

 飼料イネの栽培面積は1.4haですが,2007年には2.0haに増やす予定です。飼料イネのホールクロップサイレージを利用する畜産農家にも好評のようです。奈義町全体でも飼料イネの栽培面積は増えます。長尾さんは,堆肥の利用とともに耕畜連携の中心として飼料イネ栽培をとらえています。耕畜連携のひとつに堆肥の利用もありますが,畜産農家の飼料生産もあると考えられています。耕種農家である長尾さんから,畜産農家への積極的な働きかけもあり,飼料イネ生産利用組合も軌道に乗りつつあります。このような飼料イネの取り組みは,畜産農家や耕種農家に加え,JAや農業普及指導センターなどの関係機関の協力関係が不可欠であると考えられています。
 また,小麦の栽培面積は8.7haで,農協に出荷しています。小麦の栽培において,小麦の種子を確保することが課題になるそうです。
 また,大豆の栽培面積は3haで,奈義町内の豆腐屋さんと契約して販売しています。しかし,近年の飼料イネ栽培の増加で,大豆の栽培は減少傾向にあります。
 ソバの栽培をはじめた理由は,地域活性化のために役立つからです。さらにソバは雑草防除にも効果があるそうです。
 長尾さんは,機械の有効利用を考え,水稲の栽培機械が使える,麦や大豆の栽培を行っています。理想的な栽培体系は,小麦→大豆→水稲の順に,2年3作にしたいと言われます。


写真4 ミニライスセンター

表1 栽培作目および施用について

後編につづく