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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

真庭家畜診療所蒜山支所  野矢 秀馬

 ポジティブリスト制が施行され,早や一年となります。家畜診療業務においても動物用医薬品に使用が制限されるものがあり,生産物の出荷等の規制が厳しくなっております。抗生物質は言うまでもなく,繁殖障害の治療に用いるホルモン剤に制限のあるものもあります。さらに消費者もより安全で安心できる食品を求めており,食品に対する関心が高まっています。
 ところで牛の診療件数の内,約1/3は繁殖障害が占めています。
 獣医師は繁殖障害に多くの治療薬を用いています。我々獣医師は西洋獣医学とでも言うべき学問を教わってきました。したがって治療する場合,繁殖障害ではホルモン剤が主体となります。一方,東洋医学があるように東洋獣医学があっても不思議ではありません。病気を治すのは洋の東西を問わず身体の中にある自然治癒力です。決して薬や手術だけで治るものではありません。
 しかし,現在は獣医師も畜主にも言えることですが,西洋獣医学に頼りすぎているのではないでしょうか。主に薬剤のみに頼る治療は複雑な病気をより複雑なものにし,治癒までに時間を要することもあります。我,日々反省。
 一方,東洋獣医学を用いた治療法で用いるのは主に鍼(針)と灸(ヤイト)ではないでしょうか。動物の体を大地にたとえれば,地下水の水脈が「経絡」に相当し,地上に湧出している泉が「ツボ」にあたると表現されています。またツボは内臓の組織や器官につながっているので,ツボに刺激をすることは臓器を刺激していることと同じになるといわれます。繁殖障害も多くの要因が絡み合って成立しており,身体の歪が病気となってあらわれるものです。東洋(獣)医学療法は身体の病気に対する治癒力を増す療法のひとつです。経絡には「気」が流れているといわれ,この気の流れの乱れが病気になるということです。気のリズムを整えることは,病気に対する治癒力を増し,正常な生理的状態に戻すといわれています。自律神経系に作用するといわれます。
 牛に対する鍼灸療法,特に灸治療は繁殖障害のみならず,消化器障害,泌尿器障害等にも効果があるようです。
 繁殖障害の鍼治療にはツボとして交巣穴を用い,灸治療では天平,百会,帰尾,尾帰,尾根穴等を用いて行われるのが主です。
 本誌でも以前に紹介されています。参考にされるといいでしょう。
 現在ヒトの世界も動物の世界もストレスだらけです。身体的にも精神的にも歪が出てきております。この歪が病気となり,より複雑にしています。
 カウコンフォート(牛の安楽性)とよく言われており,飼養環境の改善が色々となされておりますが,しかし病気の治療のために多くの薬剤が使用されているのも事実です。
 ところでアメリカ合衆国ではオーガニック食材の売上は,なだらかながら,着実に伸び続けており,牛乳や乳製品はオーガニック食材ビジネスにおいて重要な位置を占めているといわれております。牛本来の力を引き出すためになるべく薬(治療薬)に頼らず,種々の方法を用い,安全で有用な生産物の生産を助けることも,我々獣医師の大きな役目です。
 鍼灸療法は古臭く,非科学的なもののように言う人もいます。しかし効果はあります。一方,人医面ではかなり行われています。確かに即効性はないでしょう。あまりせっかちな人には向かない療法かもしれません。
 どうも岡山県において鍼灸療法は一時的な流行であった感は否めません。しかし身体の歪を軽減し,正常にする方法のひとつとして良い療法ではないでしょうか。鍼灸療法には出荷制限はありません。灸の跡は残りますが,畜産農家の方々も試みてはいかがでしょう。