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〔技術のページ〕

共役リノール酸を強化した畜産物(生乳)の生産技術の開発について

岡山県総合畜産センター 経営開発部 先端技術科 河原 貴裕

1 はじめに

 乳製品や牛肉のような反芻家畜由来の畜産物は,飽和脂肪酸を多く含有しています。飽和脂肪酸の摂取量が多くなると高コレステロール血症や肥満など生活習慣病のリスクが高くなります。
 しかし,最近になり,牛乳中に含有している共役リノール酸が実験動物において,抗ガン作用を示すことが認められ,アメリカなどでは牛乳の消費が上昇しました。
 共役リノール酸は CLA と略され,共役ジエン構造を有するリノール酸の異性体の総称で,牛乳に含まれる CLA は主に cis-9,trans11CLA であることが確認されています。(飼料中のリノール酸,リノレン酸が反芻家畜の生体内で CLA に合成にされます。)
 CLA の機能性については,抗ガン作用だけでなく,体脂肪の蓄積制御,免疫システムの調整,血中コレステロール濃度の上昇抑制,糖尿病の軽減などが報告されています。
 今後,牛乳の消費を伸ばしていくためには,健康志向・本物志向などの消費者ニーズに対応した品質向上の取り組みが必要と考えます。
 そこで,ジャージー牛乳の付加価値向上を目的として,生乳中の CLA を強化するため,飼育方法や給与飼料の効果を検討しました。

2 飼育方法の影響について

 中国四国酪農大学校第2牧場のジャージー牛を対象に試験を行いました。
 第2牧場では,5〜9月に3時間程度の放牧を行います。その他の期間は舎飼いで,年間を通じて TMR 飼料を給与しています。牛は放牧により,新鮮な牧草を食べますが,牧草中には,リノール酸やリノレン酸が多く含まれており,牛がこれらを摂取することにより CLA を増加させることが知られています。
 今回の試験では,CLA は放牧期が舎飼期に比べて,有意(p<0.01)に高くなりました(表1)。
 また,その他の脂肪酸についても,変動が認められ,特に,放牧期は舎飼期に比べて不飽和脂肪酸(MUFA,PUFA)が高くなりました。
 放牧は1日3時間と短時間であったことから,放牧時間を長くしたり,放牧面積を広げるなど牧草の摂取量を増加させることで,今回の試験結果よりも CLA 割合の増加が見込めます。

3 食品製造副産物を配合した給与飼料の影響について

 総合畜産センターで飼育しているジャージー牛を用いて試験を行いました。
 給与飼料として,真庭地域で産出される食品製造副産物であるヤマブドウ粕・茶殻を TMR に混合して給与しました。ヤマブドウ粕にはリノール酸(C18 : 2),茶殻にはリノレン酸(C18 : 3)が多く含まれています。
 ヤマブドウ粕はDM換算14%を粉砕して配合し,茶殻はDM換算10%を配合しました。
 また,センター慣行飼料を対照区としました。
 試験結果は表2です。乳脂肪中における脂肪酸組成は,リノール酸(C18 : 2)ではヤマブドウ粕区,リノレン酸(C18 : 3)では茶殻区が他の区と比べて有意(p<0.05)に高くなりました。これは飼料に配合したヤマブドウ粕及び茶殻中の脂肪酸組成の特徴,すなわちリノール酸,リノレン酸の含有率が高いことを反映したものであると考えられます。リノール酸,リノレン酸は生理機能を有する必須脂肪酸であり,食品製造副産物を活用した強化手法として利用できます。
 しかし,CLA については,食品製造副産物の給与区は対照区と比べて高くなる傾向がありましたが,有意な差は認められませんでした。

4 まとめ

 今回の試験結果から,飼育方法によって生産物中の割合を増加させることがわかりました。CLA は色々な健康機能が期待され,サプリメントとしても既に販売されています。乳製品等に含まれる天然の CLA を摂取する効果については,今後さらに解明が進む思われます。
 当センターでは,畜産物の付加価値向上を目的に,機能性成分を強化する技術について,さらに検討を進めていく計画です。