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〔シリーズ〕堆肥を利用した耕種農家を訪ねて

勝田郡奈義町 長尾隆大(たかとも)さん
堆肥の投入が機械作業性を向上させる(後編)

社団法人岡山県畜産協会 経営指導部 大村 昌治郎

2.堆肥の施用状況


写真5 耕起した圃場

 長尾さんは土づくりするために堆肥を利用されています。昭和50年ごろまでは,周りの農家は必ず牛を飼っていて,どの農家も牛のふんで堆肥を作って利用していました。長尾さんにはそのイメージが強く残っており,自分が農業するなら堆肥を利用しようと考えられていました。さらに,広い面積を機械で作業するため,固い土では作業性が悪く,無駄に時間がかかってしまいます。ところが,堆肥を投入した土は土壌が軟らかくなり,機械作業性が向上します。作業時間のめどもつきやすく,天候が良好なときに一気に作業が完了するなど,機械作業性が良いことはスケジュール管理もうまくいきやすくなります。
 長尾さんは固くなった土壌の破砕を重要視されるので,耕起はプラソイラー耕の後に,堆肥散布を行い,プラウで起こします。そうすると,全層に堆肥がいきわたります。また,圃場の排水が良くなるように,レーザーレベラーという機械を利用して,勾配をつけて耕起されています。
 しかし何年かそのようにやってきて,圃場の中心が盛り上がり,端が掘り下がってきたら,ロータリーで起こされています。


写真6 トラクター

3.現在,利用している堆肥について

 現在,利用している堆肥は,奈義有機センターと奈義町内の肉用牛肥育経営の堆肥を利用されています。肉用牛肥育農家の堆肥は2haの稲ワラ交換で,ほとんどは奈義有機センターの堆肥を利用されています。理想は自分つくった堆肥を自分で所有したマニュアスプレッダーで散布すること考えられていました。しかし,大規模に作付けされているため,現状では堆肥生産に労働時間を確保することが困難なようです。そこで,堆肥センターに堆肥散布を含めて任せた方が良いと判断されています。
 奈義有機センターの堆肥は年間に2tダンプに500車も利用されています。肉用牛肥育農家の堆肥は最近評判が良いのか,稲わらと堆肥の交換ができにくくなっているそうです。
 水稲などで利用する堆肥は,完全に腐熟化されたもの堆肥でなくとも,腐熟途中のもので良いと長尾さんは考えられています。それよりも価格が高くない堆肥を望まれます。その理由は,水稲では米価の低迷により,10aあたりの収入が少なくなっており,堆肥などの資材費を十分にかけることができません。また,秋から冬にかけて堆肥を散布するのであれば,しっかり温度が上昇して外来雑草などの種子が死滅した堆肥であれば十分と考えられています。


写真7 奈義有機センター

表2 堆肥の調達

4.堆肥の施用効果について

 長尾さんは土づくりを重視して堆肥を施用されています。堆肥の施用と固くなった土壌の破砕が土づくりのうえで重要と考えられています。そのため,堆肥に求めることは物理性の改善が第一です。堆肥を投入した圃場の土が軟らかくなり,機械の作業性も向上するため,労働時間が短縮されるというメリットがあると長尾さんは言われます。また,堆肥を施用することで,確実に化学肥料の施肥量が減少すると言われます。
 土壌が軟らかく改善されるため,作物の根張りが良くなり,微量要素も吸い上げてくれるそうです。堆肥の施用による収量は変化がないようですが,消費者に対しては,堆肥を使って栽培した米ということでとても評判が良いそうです。

表3 堆肥の施用効果

5.今後,堆肥利用を促進するために何が必要でしょうか?

 長尾さんは畜産から出てきた家畜ふんからできた堆肥の利用(受入側)も重要ですが,さらに稲ワラ交換や飼料イネを栽培して家畜のための飼料の供給(供給側)も重要であると考えられています。耕種と畜産との連携は堆肥利用と飼料生産で深めていこうと考えておられます。
 また,岡山県良質堆きゅう肥共励会の審査員として,長年にわたって畜産で作られる堆肥の品質向上にも協力してもらっています。岡山県良質堆きゅう肥共励会は,これまでの通常の官能審査では,基本的に審査基準に準じて審査していました。しかし,平成17年度より,実際に利用する耕種農家の考え方などが反映するように,利用したい堆肥について特別審査員賞を選出することにしました。耕種農家が利用したい堆肥はどれであるか,分析値や価格等を参考にして選んでもらっています。このような新たな方向性についても長尾さんの意見等が取り入れられてきました。
 今回,堆肥の利用について長尾さんと話してみて,大規模化した耕種農家において機械を利用した栽培に適した土壌をつくるため,堆肥がいかに重要であるということがしっかり伝わってきました。さらに,耕種農家と畜産農家がどれだけ連携できるか真剣に考えられており,堆肥センターに対して,自分が求める堆肥や改善点について積極的に意見交換されているようです。耕種と畜産がお互いに高めあうことによって,それぞれの経営が良くなるためにも,「地域での耕畜連携が進まないといけない。」と強く言われる長尾さんがとても印象的でした。