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〔技術のページ〕

採卵成績向上に向けた取り組み
−ヒト由来性腺刺激ホルモン(HMG)の利用について−

岡山県総合畜産センター 大家畜部受精卵供給科
研究員 中原 仁

 近年,酪農家の皆さんを中心に和牛の受精卵移植が増加しており,子牛市場に上場される和牛の約10%が受精卵産子で占められるようになっています。こうした状況のなか,和牛受精卵を確保するため昨年度は県下で200頭以上の採卵が実施されました。一回あたりの和牛の平均正常卵数7〜8個ぐらいですが,中には採卵成績が良くない牛もみられます。その原因としてホルモン剤への反応不良が考えられます。皆さんのなかにも,正常卵が得られずに悲しい思いをした方もいることでしょう。
 そこで,総合畜産センターでは新しいホルモン剤を利用して採卵成績の改善を図る取り組みを行っていますので,その成果について紹介します。

1.新しいホルモン剤

 牛の過剰排卵を誘起するホルモン剤として豚由来の卵胞刺激ホルモン(FSH)や馬由来の妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)などが知られており,現在は主にFSHが利用されています。
 今回,私たちは,ヒト由来性腺刺激ホル
モン(HMG)に着目しました。HMGは,図1に示すようにFSHと同等かそれ以上の効果が認められていますが,薬品単価が高額であるためにこれまで利用されませんでした。
 そこで,HMGとFSHを半分ずつ併用することでHMGの価格を抑えながら過剰排卵効果が得られないかを検討しました。


図1 FSHとHMGの採卵成績と価格

2.センターでの取り組み

1)試験方法

 当センター繋養の黒毛和種繁殖雌牛を用いて試験を実施しました。


図2 過剰排卵処理方法

 採卵を行う場合の過剰排卵処理を図2のように行いました。すなわち,一般に行われているFSH20Aを単独で処理する方法(従来法)と通常の半量(HMG:300IUとFSH10A)ずつを併用する方法(併用法)で処理を行い,採卵成績を比較しました。

2)採卵成績

 従来法と併用法での採卵成績を比較すると推定黄体数,回収卵数,正常卵数ともに併用法の方が良好な成績が得られました(表1)。

表1 処理別の採卵成績

 併用法を利用した19頭の成績と過去に実施した従来法の成績を詳細に分析してみるとおもしろいことが明らかとなりました。図3は,従来法による過去の採卵成績で正常卵が10個未満のもの(不良牛)とそれ以上のもの(優良牛)とに分けて成績を比較したものです。


図3 採卵成績別の正常卵数

 比較的採卵成績が優秀な優良牛群では処理方法による差はあまりないのに対して,成績が不良な群ではホルモン剤の併用により採卵成績が顕著に改善されました。
 このことから,併用法は過去の採卵成績から正常卵数が多く確保できなかった牛に対して特に有効な処理方法と考えられます。

3)経費の比較

 最初にお話ししたようにHMGは高価なですから,コストの増加も気になります。そこで,今回行った方法でのコストの試算を行ってみました。
 採卵経費は,ホルモン剤を半量ずつにすることで薬品のコストはある程度抑制できましたが,やはり従来法に比べて併用法では1回の採卵当たり3千円程度コスト増となりました。しかし,併用法により正常卵数が増加したことから,正常卵1卵あたりのコストでは従来法の2分の1になりました。

表2 処理方法別の採卵経費

 特に採卵成績不良牛でこの差は顕著に現れ,従来法の約3分の1のコストで受精卵の生産が行える結果になっています。

3.今後の展開

 HMGは採卵成績が不良の黒毛和種に有効です。「いい牛なんだけど,採卵成績がどうも…」という牛をお持ちの方は是非チャレンジしてみてはどうでしょうか。また,今回の方法について乳用牛に対して効果はまだ明らかとなっていません。
 今後は,乳用牛への応用,HMGを用いた低コストな処理方法などを引き続き検討し,低コストで効率的な採卵方法の確立を図っていきたいと考えています。