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〔シリーズ〕堆肥利用の耕種農家を訪ねて

倉敷市 津郷 宣正 さん
堆肥は土壌中の腐植含量を適正に保ち,緩衝材の役割をする

社団法人岡山県畜産協会 経営指導部 大村 昌治郎


写真1 津郷 宣正 さん

 今回のシリーズ「堆肥を利用した耕種農家を訪ねて」は,倉敷市でピオーネを栽培されている津郷宣正さんにスポットをあててみました。津郷さんは,2003年の第32回日本農業賞大賞,平成15年度(第42回)農林水産祭天皇杯(園芸部門)を受賞されています。受賞理由は,ブドウの木を大木に仕立て,樹冠を広々とし,作型の分散と作業の機械化で省力化した経営が評価されての受賞でした。
 日本農業賞大賞,農林水産祭天皇杯(園芸部門)を受賞された津郷さんが,ブドウ栽培にどのように堆肥を利用しているのかうかがってきました。

1.栽培作目と面積

 津郷さんの農園では,ブドウの木は10aに6本と少ない本数で栽培されています。自ら開発したトリプルH型整枝法によって,ブドウの木を大木に仕立て,慣行栽培(同12〜15本)の半分以下の本数で広々とした園地を作り出しています。一本当たりの枝を張り巡らせたブドウ棚の面積(樹冠面積)が広いのが特徴で,木と木の間が離れているため,運搬車や農薬を散布するスピードスプレヤーが園内を楽々と走行でき,省力化に大きく貢献しています。
 毎年バックホーによる部分深耕で地力を増強し,生育に応じた追肥を行い,品質・収量ともに優れた株の増殖を図っておられます。
 加温開始時期の異なる加温栽培で3つの型,さらに無加温栽培型と簡易被覆栽培型を加えた5つの栽培時期をうまく組み合わせて作業労働の分散を図り,7月初めから9月中旬まで長期間にわたって連続出荷を行っておられます。
 このように,経営を徹底的に分析し,経営努力によって,総労働時間を岡山県の示す指針の3分の2まで減らし,ブドウを専門に作付けしている経営としては,岡山県内で最大規模の1.7haを家族3人でこなすという効率経営を実現されています。
 また,先代といっしょにつくられたピオーネの栽培カレンダーは「すばらしい栽培カレンダーなので,このとおりに栽培すれば,必ず良いブドウができる。」と言われます。
 また,果物王国岡山 津郷農園(http://www.tamatele.ne.jp/~tugou/index.htm)というホームページも作成され,農園の紹介や直接販売にも力を入れられています。
 販売目的の栽培作目はピオーネのみです。他にも安芸クィーンやオーロラブラックなどの品種も試作しているそうですが,まだまだピオーネの収益性が高いこともあって,ピオーネのみを販売されています。
 ピオーネの10aあたりの収穫量は1,500sになります。10a当たりの収穫量を1,500sに厳守することで,色づきが良く,糖度も17度以上のブドウに仕上げられています。ピオーネは見た目がとても大事なので,一粒16gの大玉生産に励んでおられます。出荷は,農協を通じて販売され,市場や地元のデパートで高い評価を受けておられます。

表1 栽培作目および施用について


写真2 ブドウの木を大木に仕立て、樹冠を広々とさせている

2.堆肥の施用状況

 ブドウの根のまわりに,半径2mの堆肥をマルチのように表面施用します。また,活力のある細根を増やし樹を元気に保つために,毎年,堆肥等を,50〜70p掘って,部分深耕で投入されています。毎年必ず堆肥を施用しており,25〜30年にわたり連年施用されています。
 堆肥の散布は,ハウスの中を,キャビンを切断した特製の軽四ダンプで運搬しながら,根のまわりに散布されています。堆肥を施用し,土が肥えれば肥えるほど,包容力があると言われます。
 一般的に,土壌中の腐植は3%程度が良いとされており,堆肥を入れる目的は,土壌中の腐植含量を適正に保つためです。


写真3 ブドウの根のまわりに表面施用

3.現在,利用している堆肥について

 津郷さんが使われる堆肥は牛ふんと馬ふんを原料にして作られます。原料となる牛ふんは酪農家からもちこまれます。また,馬ふんは,川崎乗馬クラブ・クレイン倉敷から月に3回ほど,1回につき2トン車で運び込まれています。窒素の少ない堆肥を必要とするため,堆肥の窒素含有量を減少を目的に,ヒラタケのオガ・菌床を副資材として利用されています。ショベルカーによる2ヶ月おきに切り返ししながら,自分の求める堆肥を作られています。堆積期間は2年で,よく腐熟した堆肥を,有機物として年間10a当たり2.5tほど農園に広げています。


写真4 津郷さんが利用している堆肥


写真5 自ら堆肥をつくっている堆肥舎

表2 堆肥の調達

4.堆肥の施用効果について

 津郷さんは,消費者の「安全・安心でおいしい」というニーズに応えられる「ピオーネ」作りに心がけておられます。農園の脇に自前の堆肥舎を建て,近隣の酪農家や乗馬クラブから牛・馬ふんを運んでもらい,堆肥化されています。
 人が土をすべてコントロールできれば良いのだけど,堆肥がクッションとなって,ブドウが自ら必要とするだけ肥料分を吸収してくれる。堆肥は緩衝材としての役割をもつと言われます。

表3 堆肥の施用効果

5.今後,堆肥利用を促進するために何が必要でしょうか?

 全体的に,堆肥で土づくりをするムードになるためには,良い事例が必要になると津郷さんは言われます。また,堆肥を利用した耕畜連携の関係を築くためには,お互いの利害関係があるとうまくいかないことが多く,そんなときには行政などの仲介役が望まれ,特に価格面でお互いが譲らないと平行線になって耕畜連携の関係もうまくつくれず,堆肥の利用も進まないだろうと言われます。さらに,堆肥の供給側と利用側がともに,堆肥についての情報を公開・共有することが,これからの堆肥の利用を進めていく上でとても重要なことと思われました。


写真6 大粒で色づきの良いピオーネ