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家畜診療日誌

真庭家畜診療所 正 木 丈 博

 私が,真庭家畜診療所へ赴任し,半年が過ぎました。この管内ではジャージー種を飼養している農家が多く,特に私の担当地区の一つである旧落合町は乳牛の半分近く(約46%)がジャージー種を飼養しています。そこでジャージー種を診療するようになって感じたことを書いてみます。
 ジャージー牛は,つぶらな瞳にほっそりとした顔で愛らしい牛です。体は小型で,細くてきゃしゃな骨格をしてます。性質は活発ですが,やや神経質と言われます。また頭の良い牛で愛嬌があり,人によくなつくとも言われます。ジャージー種の牛乳は脂肪,無脂固形分が高く,カロチンを多く含むため,色合いが濃くゴールデンミルクなどと言われ,独特のまろやかな風味を持つ牛乳として知られています。
 私はジャージー種を以前の赴任地で見たことはありますが,当管内のように本格的に治療に携わったことはありませんでした。蒜山担当の獣医師に昔から,「ジャージー牛は,とにかくよくヘタる。」と聞きました。私も当管内に赴任して,そうだなと実感することが何度かありました。産前産後の起立不能はもちろんですが,産褥期以外にも下痢やその他の食欲不振時においても低カルシウム血症による起立不能を引き起こすことが多々あります。第四胃変位は元々発症誘因の一つに低カルシウム血症が挙げられていますが,午前中に第四胃左方変位と診断し,午後に手術予定としていた牛が,再び農家へ行った時にはすでに皮温冷感,起立不能となっていたことがありました。その時はカルシウム剤を投与し起立させてから手術しました。また産後の起立不能でも治療すれば(カルシウム剤投与)よく反応し,起立してくれるのですが,翌日再び起立不能となるものも少なくありません。産後起立不能となり,カルシウム剤を投与して起立し,再び起立不能となる。それを3日連続で繰り返したものもあり,投与量や投与方法および併用薬についてもホルスタイン種とは違い,改善する必要を感じました。
 またホルスタイン種との違いは開腹手術などにおいても感じることがあります。立位で実施する第四胃変位整復手術においても,ホルスタイン種よりも小型なので第四胃のガス抜きなどは比較的楽にできます。しかし腹を閉じる時はホルスタイン種のほうがいいなあといつも思ってしまいます。なぜなら縫っていく時,ホルスタイン種ならちょうど良い高さになるので術者は直立したまま縫えるのですが,ジャージー種は体高が低いため腰を屈めなくてはならず,縫い終わった後はいつも伸びをしながら「あいたた!」と声を出してしまいます。小型の椅子があればちょうど良い高さなのですが・・・。
 またジャージー種はホルスタイン種より軽量なため,起立不能牛の移動が,少人数でも比較的簡単にできます。例えば起立不能となり牛床より前にずり出た成牛でもジャージー種なら一人でなんとか引き戻すことができますし,寝返しも一人で出来ます。畜主が一人でそれをやってるのをみて,私は思わず「なんと1人でもできるんだ!」と感心してしまいました。
 ジャージー種の起立不能についてはその頻度の多さより,ホルスタイン種との違いが検討されてきましたが,まだ明確な理由はわかっていません。暑さには比較的強いジャージー牛たちもこれから冬場を迎え寒さが強くなるとさらにヘタることが多くなるそうです。カルシウム剤が手放せない毎日ですが,畜主の皆さんもしかたのない病気とあきらめないで,予防や早期発見に努め,ジャージー牛の‘ヘタリ’を少しでも減らすようにお互い頑張っていきましょう。