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豚の人工授精をはじめてみませんか?

岡山県総合畜産センター 環境家畜部中小家畜科 
研究員 藤 原 裕 士

  今年の夏は猛暑で,養豚業を営む方々にとって大変な夏だったと思います。暑さは飼養豚にとってもさまざまな問題を引き起こしますが,なかでも繁殖性の低下は,大きく経営を左右する問題であり,特に一貫経営の養豚農家にとっては頭の痛い問題だと言えます。
 そこで今回は,繁殖性の向上に効果のある「人工授精技術」を有効に利用し,夏場だけではなく一年を通して繁殖性向上を図ることで,養豚経営を効率的に行う方法を紹介します。

総合畜産センターで繋養のバークシャー種

1 人工授精の利点
 豚の人工授精は,液状精液の利用技術が進み,さらに経営規模の拡大と一貫経営の増加に伴い,利用率が高まってきています。
それでは人工授精をするとどのような効果が得られるのでしょうか。
 一般的には次にあげるような利点が考えられます。
 1)人工授精による経済効果
 通常,1回の採精で約10回分(1発情に2回種付けでは,種雌豚5頭分)の授精が可能になることから,単純計算で種雄豚の繋養頭数を5分の1程度に減らすことができます。自然交配と人工授精を併用したところ,種雄豚の飼養頭数を40%程度削減できるという試算があります。その結果,母豚330頭,種雄豚25頭飼育の一貫経営の農場においては,導入経費と繋養に要する費用,労働費を基礎に計算すると,種雄豚を5頭削減した場合で年間約70万円,10頭削減の場合で170万円の経費を節減できるとしています。
 実際には,豚舎や糞尿処理施設の規模の縮小ができたり,さらには交配作業を減らすことにより効率的に作業をすることが可能になることから,経済的な相乗効果はさらに大きいと思われます。
 2)優良雄豚を有効に利用できる
 種雄豚を選抜して数を減らし優良雄豚のみを繋養すれば,当然,繁殖性が向上するばかりではなく,肉豚の生産においても優れた肉質の豚が生産される可能性が高まります。

人工授精風景

 3)病気に対する予防効果
 衛生的に採取した精液には,豚で問題になるマイコプラズマやボルデテラ,パスツレラ,アクチノバシラスなどの病原細菌の混入がほとんど無いことが報告されています。また,精液を希釈する際に,精液内に混入する細菌に対して感受性の高い抗生物質を添加しており,良好な状態で保存期間を長く維持することができます。当センターにおいては,アミカマイシンを添加しています。
 4)飼養者の安全性が高まる
 高齢化の進んでいる養豚農家にとって種雄豚の飼育頭数が減ることにより,飼養者が怪我をする危険性を低くする効果もあります。

2 液状精液による受胎性
 表1はセンターが譲渡した液状精液を使用している農場の月別受胎率と平均産子数です。月によって多少ばらつきはありますが,自然交配と比較して人工授精を併用しても受胎率と平均産子数は遜色ない結果が得られています。

3 センターにおける精液の譲渡
 当センターにおいては,毎週月と木曜日に,種雄豚より採精し,宅配便による配布を行っています。繋養している種豚はデュロック種とバークシャー種です。バークシャー種については産肉成績向上のため,毎年鹿児島県等の先進地から導入しており,多くの優秀な種雄豚を繋養しています。
 実際に農家の現場において採精を行うのは,設備や技術も含め難しい面があります。仮に,自家農場で採精しても精液の性状を検査できなければ人工授精に使用することは困難です。
 もし現在,「豚の人工授精に興味はあるが自然交配と比べるとどうだろうか」「採精ができない」等で躊躇されている方は,総合畜産センターの液状精液を利用されてみてはいかがでしょうか。ちなみにH18年度では,バークシャー種が164本,デュロック種が1,663本を譲渡しています。
 また当センターでは,液状精液だけではなく,将来農家で繁殖豚として活躍する種子豚も生体で供給しています。興味をお持ちの方は,お気軽にご連絡ください。

採精風景