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〔共済連だより〕

 家畜診療日誌

真庭家畜診療所 蒜山支所 影 山  毅

 乳牛に切っても切れない疾病の一つに乳熱・低カルシウム血症があります。
 一般的には分娩性低カルシウム血症を「乳熱」といい,非分娩性のものを「低カルシウム血症」といいます。乳熱は分娩後2日以内に発生することが多く,低カルシウム血症は分娩後30日〜90日で発生が多く,270日以降にも増加傾向があります。
 平成18年度の岡山県下の家畜診療所において,第一病名で乳熱が779頭,低カルシウム血症が310頭発生しており,当蒜山支所では乳熱が245頭,低カルシウム血症が142頭と多く,1日でカルシウム剤を1ケース(20本)以上使用することもあります。蒜山で低カルシウム血症が多いのは気候,ジャージー種,火山灰土壌との関係が深いと思われます。
 どの酪農家も「今さら乳熱なんて」と言われると思いますが,単に起立不能の問題ではなく,重要なのは潜在性の低カルシウム血症です。
 乾乳期になるとカルシウムは余剰となり尿より排泄されます。乾乳期間中にこの様な状態が続くと血中カルシウム濃度低下に反応する上皮小体(副甲状腺)の機能が減退し,その状態で分娩すると初乳に大量のカルシウムが動員されます。
 分娩後は,小腸からカルシウムの吸収が不足する為,上皮小体から放出するPHT(パラトルモン)により骨からカルシウムを移動させねばなりません。上皮小体の機能が不完全で重度のものは乳熱に,軽度のものは潜在性低カルシウム血症として影響を及ぼします。
 潜在性低カルシウム血症により,消化管の運動性が低下し第四胃変位,飼料摂取量低下によりケトージス,乳量低下,また子宮の運動低下により胎盤停滞となり,エネルギーのマイナスバランスと伴い,繁殖成績の低下を招きます。産後疾患の「スイッチ・オン」が低カルシウム血症にあるといえます。
 乳牛は,分娩時に初乳合成の為,急激にカルシウムを乳房へ送ります。初乳は,常乳の約二倍のカルシウムを含み,多量のカルシウムが体内から消失します。また,泌乳最盛期と乾乳期にもピークがあります。前者はカルシウムの流失が多く,後者は泌乳低下に伴い,カルシウムの吸収率が下がり,また配合飼料の給与を減らすことも原因と考えられています。
 対策として
1)カリウム含量の少ない牧草を利用する
2)要求量を満たしたカルシウムを給与する
3)アニオン化した飼料の給与は最小限にし,分娩前の乾物摂取量を増やす
4)良質粗飼料を十分に給与する
5)分娩前後にビタミンやカルシウムサプリメントを投与する等
 低カルシウム血症が多いにもかかわらず,予防対策は必ずしも十分とは言えません。そして,起立不能より潜在性低カルシウム血症の方が経済損失は何倍も大きいのです。何事も「潜在性」に要注意。