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輸入粗飼料の中毒に注意!!

岡山家畜保健衛生所 家畜病性鑑定課

 最近,輸入乾牧草給与が原因であると思われる牛の中毒が全国的に頻発しています。
 本年4月には高濃度の硝酸態窒素を含んだ米国産スーダングラスの給与による死亡例が報告され,エンドファイト中毒についても毎年全国で発生例が報告されている状況です。今回は輸入乾牧草給与に起因するこれら2つの中毒について紹介します。

○硝酸塩中毒

 多くの植物は,成長過程で土壌中から窒素を吸収します。硝酸塩(NO3)の形で根から吸収した窒素は,アンモニアに変換され最終的に蛋白質に合成されます。
 この一連の反応が何らかの原因で円滑に進まないときに,植物中に硝酸塩が多く蓄積されます。
 一方,牛の第一胃内に入った硝酸塩は微生物の作用で亜硝酸(NO2)に変えられ,一定量の亜硝酸は微生物に利用されますが,それ以上の亜硝酸は,牛に直接吸収され血中でヘモグロビン(酸素と結びついて全身に酸素を運搬する働きをする)と結合し,酸欠状態を引き起こします。急性経過では発症後数時間で死亡します。
 輸入に限らず,自給粗飼料であっても過剰に窒素を施肥したり,干ばつ,日照不足,低温などのストレスを植物が受けると光合成が円滑に進まず,多量の硝酸塩を蓄積します。
 硝酸塩中毒の被害を最小限にするには,以下のことが必要です。

・高濃度の疑いのある粗飼料を給与する場合,低濃度の粗飼料と組み合わせる。
・高濃度の疑いのある粗飼料はサイレージ化する。
・給与粗飼料の硝酸態窒素濃度を定期的に把握しておく。

 給与のガイドライン(表1)を参考に飼料設計を行って下さい。

○エンドファイト中毒

 植物に寄生しているカビや細菌を総称してエンドファイトといいます。特にイネ科植物に寄生するカビのなかには,毒素を産生して牛に中毒症状を起こさせるものがあります(表2)。
 米国産のトールフェスクやペレニアルライグラスは本来,西洋芝の種子採取のため栽培されているもので,虫害防除のため人工的にエンドファイトを感染させています。種子を生産した後の雑かん(ストロー)が飼料用として輸入されています。使用に際してはこのような特性を充分理解した上で,以下のことに注意してください。

・単味で多量に使用せず,他の乾牧草を併せて給与する。
・飼料販売業者に品種や生産地,エンドファイト毒素検査結果を確認する。

 エンドファイト中毒の原因究明に際しては,飼料に関する情報が不可欠となりますので,日頃より給与状況を記帳しておくことが大切です。

 牛の異常が全て飼料に起因するものばかりとは限りません。発生状況,臨床症状,臨床検査等を行った上での総合的な判断が必要となります。
 異常の原因が給与粗飼料であると強く疑われる場合には,直ちに給与を中止したり切り替えをするとともに,最寄りの家畜保健衛生所に連絡をして下さい。

表1  硝酸塩を含む粗飼料と給与ガイドライン(メリーランド大学)
乾物中の硝酸態窒素濃度
(ppm)
危険の有無と注意点
1000未満 ・給与しても安全
1000〜1500 ・妊娠していない場合は安全
・妊娠している場合は給与飼料全体の最大50%(乾物当たり)とする
※場合によっては牛が飼料の摂取を停止したり、生産性が徐々に低下したり、流産を起こす可能性がある。
1500〜2000 ・妊娠の有無にかかわらず給与飼料全体の最大50%(乾物当たり)とする。
2000〜3500 ・給与飼料全体の35〜40%(乾物当たり)を限度とする。
・妊娠牛への給与は不可。
3500〜4000 ・給与飼料全体の20%(乾物当たり)を限度とする。
・妊娠牛への給与は不可。
4000以上 ・給与不可
表2  エンドファイト中毒の原因牧草、毒素、症状
原因となる牧草 産生される毒素 症状
ペレニアルライグラス
(「イタリアンストロー」の名で販売されることがある)
ロイトレムB ○頸部の痙攣、起立不能、筋肉の激しい痙攣
(神経毒) ○夏季に多い症状
エルゴバリン  増体量低下、体温・呼吸数の上昇、唾液分泌亢進、
(血管収縮作用) 泌乳量低下
○冬季に多い症状
トールフェスク エルゴバリン  耳、尾先、蹄等の壊疽、後肢の腫れ、蹄の剥離