ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り2007年11・12月号 >美作市の小林大悟さん 社団法人 日本草地畜産種子協会会長特別賞を受賞

美作市の小林大悟さん 
社団法人 日本草地畜産種子協会会長特別賞を受賞

岡山県畜産協会 経営指導部

 第11回全国草地畜産コンクールの飼料生産部門に出品した美作市の小林大悟さんは,粗飼料自給率100%を目指して,地域と連携し意欲的に取り組まれている点が高く評価され,全国優良事例9名の中に選ばれ,栄えある社団法人日本草地畜産種子協会会長特別賞を受賞されました。(6月28日表彰式)
 このため,受賞のご披露と併せ,小林さんの「受賞者のことば」を以下,ご紹介させていただきます。

<受賞者のことば>
放牧・飼料作付・稲ワラ収集による粗飼料自給率向上への取り組み


美作市山外野1503 大畠牧場 小林 大悟
(前列の左から2人目)

1.地域の概要

 私共の牧場は美作市の旧美作町にあります。美作市は県の北東部に位置し,平成16年度の農業生産額は,35億4千万円となっており,その内,米が約半数を占める稲作中心の農業地域です。また黒大豆の生産も盛んで,県内でも有数の産地となっています。畜産の生産高は8億円となっております。

2.経営の概要

 経営の概要についてですが,労働力としては,雇い入れを含め6人でやっており,繁殖雌牛を40頭飼っております。また,削蹄業も行っており,土地は借受地を含め,約4haあり,施設機械は,次のとおりです。

(主な施設機械)
施設:成牛舎2棟,カーフハッチ16基,農機具庫1棟,堆肥舎1棟,稲ワラ収納庫1棟,運動場3ヵ所,管理舎1棟
機械:トラクター3台,モアコン1台,ロールベーラー1台,ラッピングマシン1台,ベールグリッパー1台,マニュアスプレッダー1台,ショベルローダー1台,トラック3台

 経営の特徴として,私達は,地域資源を活用した低コスト生産を行うため,自給飼料の増産や,放牧による省力管理,あぜ草利用等に取り組み,粗飼料自給率の向上を第1に考え,経営を行っております。
 また,地域から農地の管理依頼が増えたことを機に,平成8年頃から機械の導入を進め,飼料の増産に取組み始めました。平成11年に岡山県立農業大学校を卒業し,農業後継者として就農した時は繁殖牛28頭の規模でしたが,牛の頭数も徐々に増やし,平成15年から耕作放棄地への簡易放牧も初めております。

3.粗飼料増産に向けての取り組み

 粗飼料増産に取組み始めた背景についてですが,飼料の作付を本格的に始める前は,乾草の約半分を購入に頼っていましたが,購入乾草は価格変動が激しく,品質も不安定であり,大変苦慮しておりました。また高齢化等により近隣の農家さんから次々と,田が荒れないようにと,管理委託を受け,作付面積も増えていきました。
 一方,現在の日本の食料自給率の問題を考えると,規模拡大しても輸入飼料等に頼った経営を行えば,結果として食料自給率を下げることになることから,大変複雑な思いがします。
 具体的な取組内容についてですが,主に飼料作付け,あぜ草利用,たい肥交換による稲わら収集,黒大豆生産農家との連携,簡易放牧を実施しており,耕種農家との連携によって,粗飼料自給率100%を目指しています。

(1) 飼料作付けとあぜ草利用についてですが,作付面積は約3.5haで,うち3haは近隣の休耕田を借り受けて作付しています。作業は,ロールベーラー体系で行っており,品目は主にイタリアンライグラスを作付し,その後「なつ乾草」も作っております。当初はトウモロコシを作っていましたが,イノシシの被害が大変多く,現在のイタリアンライグラスに変更しました。また,すべての圃場について,あぜ草刈りを年3回行っており,あぜの管理を行うとともに,刈り取った草もロール化し飼料として利用しています。

(2) たい肥交換と稲わら収集ですが,年間5haほど収集しており,それらの田には,たい肥を10aあたり2トンの散布を行っております。集めたわらは,エサとして使用するほか,敷き料にも使っております。わらは十分乾燥させてから集め,全てラップ保管しています。また,たい肥交換をすることで,耕種農家側から追加の交換依頼があったりもします。また,わらを取ってもらったら,鍬込む際に機械に詰まりにくくなったから,今年も取ってくれと頼まれることもあります。

(3) 黒大豆生産農家との連携についてですが,勝英地域を中心に岡山県は日本一の黒大豆を生産しており,近所で8haほど黒大豆を生産している農家から,豆がらを収集し,稲ワラの代替として,牛の飼料に使用しております。牛の嗜好性も大変よく,食べ残った軸も,敷き料に引き込み,堆肥化しており,また,たい肥は生産農家へ還元しています。

(4) 耕作放棄地を利用した簡易放牧の実施については,平成15年度に,町・普及センター・振興局の支援を受け,地域の耕作放棄地の保全管理事業への取り組みを始めたことがきっかけとなり,電気牧柵を利用した,簡易放牧を行っています。現在,耕作放棄地の利用は4.2haまで拡大し,放牧を行っております。
   予想以上に農地の維持管理,景観保全効果があり,放牧後,周辺の耕種農家から,イノシシ被害が減ったとの声も聞かれました。
   また,放牧によって,周辺の畑が活性化し,農地だけでなく,牛も美しく健康になっており,なかには,子,孫を連れて牛を見に来る人もいたり,はたまた,牛を飼ってみたいという人もおられます。

4.粗飼料増産へ取り組んだ成果

 これら飼料増産へ取り組んだ成果としては,あぜ草,稲わら,豆がらの使用により,飼料購入費が削減されたこと,自給飼料の作付を行い,品質の自己管理が可能になったこと,放牧によって,省力管理化が図られたこと等が挙げられます。現在はこれらを組み合わせることで,繁殖牛への粗飼料はほぼ自給率100%を達成することが出来ました。また良質乾草は子牛にも給与しており,嗜好性も良好であります。しかし,何よりの成果は,耕種農家の協力があって初めて,今の私たちの経営が成り立っており,その耕種農家との信頼関係を作ることが出来たことが,本当に大きな収穫となっております。
 このように私たちは,地域の人々に支えられ,地域に生かされているんだということを,最近感じる様になりました。そして,私の生きている地域のために何が出来るかを考え,微力ながらも,魅力ある故郷作りに貢献していきたいと考えております。

5.今後の目標

 今後の目標としましては,繁殖牛群の改良を進めていくことです。そのため,育種価を利用し肉質とともに増体の良い母体をそろえ,より市場性の高い子牛生産を行うことで,経営の安定化を図っていきたいと思います。また,地域の耕種農家との連携を密にし,循環型農業を推進するため,耕種農家に喜ばれる良質たい肥の生産などに努めるとともに,増加し続ける遊休農地についても,放牧などを活用しながら解消していきたいと考えています。その際,出前放牧や,地域の放牧仲間づくりも出来ればと考えております。
 さらに,機械体系の整備や,圃場を集積化し,より効率的な粗飼料確保を図り,今後とも粗飼料自給率100%を目指します。