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稲発酵粗飼料の取り組み拡大について

畜産課酪農飼料班

 畜産農家は,輸入飼料価格の高騰により厳しい経営環境にあることから,自給飼料の生産拡大,特にその具体的手法として,水田を活用した耕畜連携による飼料増産が急務となっています。
 そこで,11月28日,テクノサポートにおいて,畜産協会,草地協会,畜産課の共催で「平成19年度耕畜連携推進研修会」(畜産関係者57人,稲作関係者52人,その他26人,計135人参加)を開催し,耕畜連携の優良事例発表と併せて,パネルディスカッションを通して稲発酵粗飼料の取組拡大を推進しました。
 今回は,そのパネルディスカッションの概要を紹介します。

テーマ「稲発酵粗飼料は,水田農業の未来を切り拓くカギとなるか?」    

コーディネーター 岡山大学農学部 横溝功教授
パネリスト  岡山中央稲わら収集組合 藤沢輝久氏(耕種農家)
津山市 酪農家 永禮淳一氏(畜産農家
備中県民局 農林水産事業部 岡田英樹主任
勝英農業普及指導センタ 清水稔統総括副参事
おかやま酪農業協同組合 高山勝好室長
生産流通課 黒住繁久総括参事
畜産課 斉木 孝総括参事

横溝「H18作付面積は42ha。年々拡大しているが,中国5県で比べると岡山県は第3位。トップの鳥取県の1/3にも満たない。一方,本県の経産牛頭数は,鳥取県の2倍以上いることから,もっと拡大できるはず。取組拡大に向け,3つの柱について議論したい。まず始めは「栽培・給与面」。永禮さんに,稲作農家への要望と畜産農家へのアドバイスを紹介して欲しい。」

永禮「稲発酵粗飼料は牛のエサになり,最終的に牛乳や肉になる。単に転作のためと思わず,農薬の適正使用等を稲作農家に要望したい。一方,稲発酵粗飼料のTDNはチモシー並と言われているが,子実が糞中に排泄されやすく,言われる程のTDNが得られないことがあるので,畜産農家に対しては,その点に注意して欲しい。」

横溝「備中地域は栽培マニュアルを作成していたが,特に工夫した点を紹介して欲しい。」

岡田「管内は児島湖流域にあるため,使用できる農薬に制限があり,その点を考慮して,普及センターが作成した。来年度はさらに充実させる予定。」

横溝「奈義では,栽培・給与マニュアルの作成に加え,稲作農家や畜産農家への個別指導を実施しているが,詳しく紹介して欲しい。」

清水「新規栽培者に対しては,田植前に栽培講習会を開催し,特に農薬指導を行う。また圃場巡回結果を配布し,必要に応じて個別指導。新規利用者へは給与指導をするとともに給与後の感想をアンケート調査する。また糞を採取し,糞中へ排泄された籾量を計測し,利用上の注意点等について情報交換を行っている。」

横溝「各地域は奈義のシステムをぜひ参考にして欲しい。次に,2つ目の柱である「体制づくり」を議論したい。藤沢さんは,「農協等が間に入った供給体制が必要」と言われていたが,詳しく話して欲しい。」

藤沢「今回,県や普及センターのおかげで販売先(畜産農家)を探してもらえたが,県民局は遠くて行きづらい。身近な農協が対応してもらえるとありがたい。」

横溝「奈義は最初,おか酪と普及センターが供給先を選んで始めたと聞いている。その辺の経緯を教えて。」

清水「まず始めに,実証展示をしようと稲作農家に声をかけた。続いて給与農家については,おか酪と勝英農協が,酪農組合の役員に声をかけて決定した。」

横溝「備中地域は,農林水産事業部が連絡調整をとりながら進めていると聞いたが,詳しく話して。」

岡田「始めたばかりなので,今回は普及センターや事業部が直接農家に声をかけて進めた。取組が拡大すれば,奈義のようなシステムが必要になる。」

横溝「取組が拡大すれば,地域外への供給を考える必要があるし,そもそも地域内に畜産農家がほとんどいない地域もある。そういう場合の供給先の斡旋について,おか酪はどう考えているか?」

高山 「おか酪は酪農家に,今アンケートを実施しており,どこでどのくらい需要があるか調査している。今後の供給先については,おか酪の各事業所に問い合わせて欲しい。おか酪が酪農家を斡旋する。肉用牛農家には,総合農協や全農が斡旋するだろう。
 お試しではなく,エサとして本格的に給与するなら,ある程度の量が必要になる。半年給与するなら約180ロール,年間給与するなら約365ロール必要になる。
 また,今までは圃場まで取りに行ける畜産農家ばかりだったが,今後は,誰がどうやって運び出すかという問題も出てくる。広域になると,ある程度の運搬費助成も必要ではないか?また,堆肥散布までつなげることを考えなくてはならない。」

横溝「おか酪として,耕種農家側へのPR等をどのように考えているか?」

高山「各地域水田協議会の話し合いの場に出向いて行きたいと考えている。需要は十分あるので,過剰作付け解消のために,どれだけ稲発酵粗飼料を作れば良いかを,水田協議会でよく考えて欲しい。」

横溝「続いて,3つ目の柱である「収益性の向上」について議論したい。拡大した背景には,米の生産調整関係の補助事業や,機械整備状況等が寄与しているが,まず生産流通課に補助事業の紹介をお願いしたい。」

黒住「産地づくり交付金は,地域によって助成金額に差がある。県北では,5万円/10aぐらい出すところもあるが,地域によっては,ほとんど助成しないところもある。
 その他に,新需給調整システム定着交付金があり,従来はピオーネや有機野菜等に助成していたが,来年度は,稲発酵粗飼料に2万円/10a上乗せ助成する方法を検討している。団地化等が条件となるが,各地域はこれを参考に検討して欲しい。」

横溝「次に,畜産課から県内の機械整備状況や,導入に助成可能な補助事業について紹介して欲しい。」

斉木「専用収穫機は県内に3台導入されており,おか酪と新見市と西大寺の酪農家組合が利用中。一方,通常のロールベーラー等でも調製は可能で,例えば矢掛の公共育成牧場は,この方法で取り組み,面積拡大の意向があると聞いている。
 こうした機械導入には,強い農業づくり交付金等の補助事業対応が可能であり,詳細は,市町村を通じて県民局または支局へ相談して欲しい。」

横溝「先程おか酪は,湛水直播による省力・低コスト栽培技術を紹介したが,成功の秘訣や普及拡大するための提案等を紹介して欲しい。」

高山「特にノウハウはなく,何より実践することが大事。重要なのは代掻きを丁寧にすることと除草対策。来年度は食用米も湛水直播をしたいと考えている。箱苗は運ぶのも大変だし,洗うのも大変。もう,そんな大変なことをする時代じゃないと思う。
 普及拡大には,ぜひ普及センターの強力な推進をお願いしたい。」

横溝「最後に,行政から一言ずつ」

黒住「昨年度は約2,200haの米の過剰作付だった。今年度の水稲作付面積は昨年度より減ったが,まだ約1,700haの過剰がある。その解消のために,ぜひ稲発酵粗飼料に取り組んで欲しい。また関係機関にはより一層の推進をお願いしたい。」

斉木「全国トップの熊本県は1,123ha,2番目の宮崎県は986ha栽培している。驚くことに,この2県はわずか3年で今の栽培面積に増やしており,その背景には,米の生産調整推進を通じた普及拡大があったと聞いている。
 現在,飼料作物を広域流通する方策を検討しているので,より一層推進して欲しい。」

横溝「冒頭で永禮さんが,稲発酵粗飼料のTDNは公表数字より低いと言われたが,その点について,パネリストの中で意見のある方がいたら紹介して欲しい。」

高山「子実の部分は,収穫ステージにより消化されにくい面があるかもしれないが,今流通している3,000円/ロールという価格なら十分メリットがある。関係機関の指導に基づく適切な利用が重要である。
 産地づくり交付金等の助成が3年で終わったら困る。そのときは,皆で要望を出そう。その一方で,助成金が続く間に足腰を強くして,将来的には4,000円とか4,500円/ロール等の単価UPも検討する必要がある。」

横溝「我が国の米の生産量は871万トンだが,適正生産量は828万トンで,43万トンのオーバーと言われている。このわずか5%オーバーで価格が暴落(約1万円/俵)となり,政府が買入対応せざるを得なくなる。
 こうした特徴から,米の生産調整は農政の重要課題となるが,有効な転作作物の選定は難しい。
 そんな中,稲発酵粗飼料は新たな可能性を秘めた作物であるが,その取組には,稲作農家と畜産農家の連携が不可欠。新たな市場を作り,信頼関係を築くことが重要。そのためには市町村,農協,普及センター等の支援がなくてはならない。次年度のさらなる展開を期待したい。本日はありがとうございました。」