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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

西南家畜診療所 江 草 佳 彦

 あけましておめでとうございます。
 夏休みを避けて休んでいた人工授精を開始している頃かと思います。また寒さの中,風邪や腸炎にならないように子牛の世話をされていると思います。酪農家にとっては大事な後継牛であり,副産物ですからね。乳牛の胎児共済が始まって,はや3年がたちました。以前は,死亡子牛の補償がなかったのですが,子牛共済に加入していれば共済金が支払われます。しかし,加入農家の死廃率の多さには驚いています。事故を分析してみると大半の死亡事故は出生時であり,特に夜間の分娩は異常を発見できないため朝方の報告が多いのです。分娩室にカメラを付けたり,膣内にセンサーを挿入して分娩の開始を携帯電話で確認できる装置が開発されています。お産は病気では無いので,両前足と頭が確認できたら静かに待っていると自然に分娩します。「難産は別ですよ。」発見次第獣医さんへ求診して下さいね。あらゆる手を尽くして娩出します。
 次に,分娩前後に起こるダウナー症候群,俗名「ヘタリ牛」。BSE発生以来,全国的に共通語となりました。
 そこで私獣医師として一句。
 @立たぬなら 立たせてみせよう
  ヘタリ牛
 A立たぬなら 立つまでまとう
  ヘタリ牛
 B立たぬなら 出してしまうぞ
  ヘタリ牛
 C立たぬなら 早く言ってよ畜主さん
 @は,稟告・問診・診断し,乳熱ならCa剤,乳房炎なら抗生剤,ケトーシスなら糖類,産道損傷なら消炎鎮痛剤を使用して絶対立たせてやると思い治療します。最後はカウハンガーで吊起してまで立たせます。Aは,適切な治療を行い牛の食欲等の活力があれば数日で起立することがあるので気楽に待ちます。畜主の方は看病が大変ですね。
 Bは,@Aと治療しても症状好転せず治癒の見込みがなくて使用薬品の出荷制限を守って廃用にします。
 Cは,蹄病や関節炎など畜主が適切な飼養管理をしておらず,求診が遅れた場合は治療効果や治癒率も低下します。また死廃事故となった場合は免責となり共済金の一部または全額を支払できない場合がありますので注意して下さい。
 お産をして,これから乳量を出して儲けてくれるはずの牛が,死廃事故になると大きな損害となります。一般的に乾乳前に乳房炎の摘発と治療,削蹄を行います。乳熱予防に分娩前にビタミン剤(D3)の注射をします。分娩時と翌日にはカルシウム剤の経口投与。産後は第四胃変位の予防に空になったお腹に経口補液剤(味噌汁等)を飲ませること。そして乳房炎予防にビタミンA剤の経口投与と乳汁検査を数日行うことを指示しています。
 ホルスタインは乳量追求の品種改良が進み多頭飼育により繁殖成績が低下している中の大事な牛です。飼料代の高騰や子牛代の低下と酪農情勢は数ケ月単位で変化して経営を圧迫していますが,今一度,牛の快適性を考慮した飼養管理を共済獣医師や各種団体と協議しましょう。
 はるばる北海道や近隣の農家からやってきた初妊牛さん達を1日でも長く飼育できるよう支援していきたいのです。
 毎日牛の管理をしている農家の皆さんが,牛の異常を発見してからが獣医師の仕事です。でも牛の病気が治るのは,薬と牛の回復力そして畜主の看病が一番ですよ。
 よきパートナーとして今年もよろしくお願いします。