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ひろば

動物愛護によせて

岡山県獣医師会長 中 張 勝 弘

 近年,動物の愛護運動は全国的に広がりをみせ,人々の間に大きな関心が見られるようになりました。日本におけるこの運動の歴史は比較的浅く,昭和49年4月な施行になりました「動物の保護及び管理に関する法律」が運動の始まりになっています。
 犬や猫の飼育者の間では,法律の施行後,比較的早い時期から,動物愛護に対します関心が高まり,全国的な運動が展開されるようになりました。且ミ会調査研究所が調査した平成6年度犬猫実勢調査によりますと,犬が約910万頭・猫が約620万頭と言う調査結果がでております。
 総理府におきましても毎年9月20日から9月26日の間を動物愛護週間として動物の愛護・福祉の啓蒙普及に力を入れています。
 犬・猫の呼称につきましても犬・猫からペット。ペットからコンパニオンアニマルズ,即ち仲間と呼ぶように変っていきました。そして飼うと言う時代から,共に生きると言うように意識の変化が見られる今日この頃であります。
 牛・豚・鶏等産業動物の分野におきましては動物の愛護・福祉についての取り組みは,これからのように思います。
 産業動物に属する動物は私達に食糧や衣服,その他の恩恵を与えてくれております。かって和牛は農家の「農宝」と呼ばれ大事に飼育されたときがあります。家族と同一の屋敷の一角で飼育され,人間と同じ扱いを受けた時代がありました。今にして思えば,動物愛護・動物福祉の原型ではなかったかと思います。
 社会・産業構造の変化に伴い,昔の1戸1頭の飼育型態は,群飼育による多頭化飼育に変り,改めて動物愛護・福祉の問題を問う時代になったと思います。
 西欧のキリスト教思想では「すべての生き物に対する責任は人間に託されており,生きものは神が人々のために与えてくれた。」との考え方が定着しており,このことが動物愛護・動物福祉の基本にあるのではないかと思います。
 福祉と言う言葉は解ったようで,説明を求められると適切な回答のできない言葉の一つではないでしょうか。ある会議の席で「動物の福祉」の言葉がでてきました。会場より福祉の意味を求める質問がありました。説明者は「福祉は福祉です」と答えた。質問者は納得することなく質問を終りました。
 私達獣医師の間では,福祉の問題を明解にするため,日本も加盟しています世界獣医協会の動物福祉委員会で,一般の福祉事項を除き,獣医師として専門分野での事項を取り決めています。これは動物に対して「5つの自由,5つの問題からの開放」からなっています。通称「ファイブフリーダム」と読んでいます。

  1. 動物を飢えや渇きから救いましょう。
  2. 肉体的な苦痛あるいは痛みから救いましょう。
  3. 怪我や病気から救いましょう。
  4. 恐怖や不快な状態から救いましょう。
  5. 本来の動物の行動様式を十分配慮した飼い方というものを指導するようにしましょう。

 以上の5点を獣医師の専門知識を生した動物への福祉と定めています。
 愛護・福祉の基本となることは,動物が快適で,衛生的で,しかも動物本来の行動ができるよう一歩でも近づく努力することにあると思います。このことは即生産につながるものと信じております。